Summary report, 27 October 2014
気候変動に関する政府間パネル第40回会合 (IPCC-40)は、デンマーク、コペンハーゲンのチボリ国際会議センターに於いて、2014年10月27日から11月1日に開催され、3つのIPCC作業部会(WG)の結論を統合する統合報告書(SYR)について議論し、これを最終決定した。これら4つの報告書を合わせてIPCC第5次評価報告書(AR5)が構成される。11月1日、パネルは、SYRの政策決定者向けサマリー(SPM)を行ごとに承認し、SYRの本文をセクションごとに採択した。AR5の作成には、過去6年間にわたり、85カ国から800名以上の執筆者及び査読編集者が参加した。IPCC-40には、政府代表、執筆者、国連機関代表、市民団体のメンバー、及び学者など、約450名が出席した。
SPMは、序文及び4つのセクションで構成される。観測された変化及びその原因(Observed Changes and their Causes)のセクションには、次のサブセクションが含まれる:気候系で観測された変化;気候変動の原因;気候変動の影響;極端な現象。将来の気候変動、リスク、及び影響(Future Climate Changes, Risks and Impacts)のセクションには次のサブセクションが含まれる:将来の気候の主要な推進要素;気候系で予想される変化;気候変動を原因とする将来リスク及び影響;2100年以後の気候変動、不可逆性、突然の変化。適応、緩和、持続可能な開発の将来経路(Future Pathways for Adaptation, Mitigation and Sustainable Development)のセクションには、次のサブセクションが含まれる:気候変動に関する政策決定の根拠;緩和及び適応により軽減される気候変動のリスク;適応経路の特性;緩和経路の特性。適応と緩和に関するセクションには、次のサブセクションが含まれる:適応及び緩和対応を可能にする共通要素及び抑制要素;適応対応オプション;緩和対応オプション;適応と緩和、技術、及び資金のための政策手法;持続可能な開発とのトレードオフ、シナジー、相互作用。報告書本文には、これらの問題の詳細を記述する。
IPCC-40は、SPMの承認及びSYRの採択に加え、特に次の問題について議論した:2017年までのIPCCプログラム及び予算;IPCCの将来の作業;コミュニケーション及びアウトリーチ活動;気候変動、食糧安全保障、農業に関する技術報告書作成の要請;IPCC利益相反(COI)方針の実施;国連気候変動枠組条約(UNFCCC)及び他の国際組織と関係する問題。さらにパネルは、多数の進捗状況報告を受けた、この中には温室効果ガスインベントリに関するタスクフォース(TFI)の報告、IPCCのカーボン・フットプリント、3つのWGsの進捗状況報告が含まれた。
IPCCの将来作業に関するタスクグループ(TGF)の第3回会合は、10月26日、IPCC-40の直前に開催され、次の項目などを議論した:タスクグループ共同議長作成のオプションペーパー改定版、これは各国政府、科学者、オブザーバー組織、テクニカルサポートユニット(TSUs)、事務局の提出文書に基づき作成された。
AR5は、6年間にわたり作成されてきたもので、SYR及び3つのWGsの報告書で構成される。パネルは、2013年9月、スウェーデンのストックホルムで、気候変動の自然科学的根拠に関する作業部会I(WGI)の報告書を採択し、2014年3月には、日本の横浜で、気候変動の影響、適応、脆弱性に関する作業部会II (WGII)の報告書を採択した。気候変動の緩和に関するWGIIIの報告書は、2014年4月、ドイツのボンで採択された。
AR5は、IPCCの主要な寄稿者であり、「最も強力な支持者の一人(one of its fiercest supporters)」であったStephen Schneider教授を記念して同教授に献呈された。
IPCCの経緯
IPCCは、人間の諸活動が原因となっている気候変動に伴うリスク、今後の影響、適応策や緩和策の理解に関する科学、技術、社会経済情報の評価を目的として、1988年、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された。 ただし、IPCC自体では、新たな研究は行わず、気候関連データをモニタリングすることもない。その代わりに、IPCCは発表済みの査読を受けた科学技術文献に基づき、知見を評価する。
IPCCは3つの作業部会(WG)を有する。WG Iでは、気候系および気候変動の科学的な局面を扱う。WG IIでは、気候変動に対する社会経済システムおよび自然システムの脆弱性、気候変動の影響および適応策を扱う。WG IIIでは、温室効果ガス(GHG)の排出を抑制し、気候変動を緩和するための施策を扱う。各WGは、2名の共同議長、6名の副議長を有するが、WG IIIは第5次評価サイクルの期間のみ、3名の共同議長を有する。共同議長は、パネルが各WGに課した義務が果たされるよう指導し、その任務遂行のため、テクニカルサポートユニット(TSU)の支援を受ける。
さらに、IPCCは、国別温室効果ガス(GHG)インベントリに関するタスクフォース(TFI)を有する。TFIは、IPCCのGHGインベントリ・プログラムを監督するが、このプログラムは、各国のGHG排出量・除去量の計算と報告書作成のため、国際的に合意された手法およびソフトウェアを開発、改善し、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国による手法の利用を推進する。
IPCCパネルはビューロー(議長団)を選出し、1つのIPCC評価報告書の期間の任期を務める。議長団の役割は、IPCC作業計画の作成、調整、モニタリングについて、IPCC議長を補佐することである。 議長団は、全ての地域を代表する気候変動の専門家で構成される。現在、議長団は31名。IPCC議長、副議長、3つのWGの共同議長および副議長、TFIの共同議長から構成される。この議長団に加え、2011年、IPCCは、会合間隙中の作業ならびにWG間の調整を支援する執行委員会を設置した。執行委員会は、IPCC議長、IPCC副議長、WGおよびTFIの共同議長のほか、事務局やTSUの長4名を含める諮問メンバーで構成される。IPCC事務局はスイスのジュネーブにあり、WMOがホスト機関となっている。
IPCCの成果:設立当初からIPCCは総合評価報告書、特別報告書、技術報告書を作成。専門家や政府による厳しい査読を受けた気候変動に関する科学情報を国際社会に提供してきた。第1次評価報告書は1990年、第2次評価報告書は1995年、第3次評価報告書は2001年、第4次評価報告書(AR4)は2007年に公表された。
現在、評価報告書は、各WGがそれぞれ作成した報告書をまとめ3部構成となっていて、それぞれの報告書の中に、政策決定者向け要約(SPM)、技術要約(テクニカルサマリー)、そしてその根拠となる評価報告書の本体が収められている。報告書は全て徹底した3段階の査読対象となる。第1段階では専門家による査読、第2段階では専門家と政府による査読、第3段階では政府による査読が行われる。各SPMは、管轄のWGにより、一行ごとの承認を受ける。また、評価報告書には、統合報告書(SYR)も含まれるが、これは3つのWGの報告書の中でも最も重要性の高い項目に焦点を当てたものであり、SYRのSPMは、IPCCパネルにより、一行ごとの承認を受ける。
IPCCは、総合評価報告書のほか、特別報告書、手法論報告書(メソドロジー・レポート)、技術報告書(テクニカルペーパー)を作成し、気候変動の個別の問題に集中的に取り組んでいる。これまでにIPCCが作成した特別報告書は以下の通り。「土地利用、土地利用変化、森林(lulucf)」(2000年);「二酸化炭素回収貯留」(2005年);「再生可能エネルギー源および気候変動緩和 (SRREN) 」 (2011年)。「気候変動への適応推進に向けた極端現象および災害のリスク管理に関する特別報告書(SREX) 」(2011年)等がある。また、技術報告書としては、「気候変動と生物多様性」(2002年)や「気候変動と水」(2008年)等が作成されている。
さらに、IPCCは、GHGに関する各国の報告を支援する手法論の報告書やガイドラインも作成する。グッド・プラクティス・ガイダンス報告書は、2000年、2003年にパネルの承認を得た。また、最新版のIPCC国別GHGインベントリ・ガイドラインについては、2006年にパネルの承認を得た。さらに、2013年には「国別GHGインベントリ:湿地のための2006年ガイドラインに対する2013年版補遺」ならびに「京都議定書の手法およびグッド・プラクティス・ガイダンス2013年改訂版」も採択された。
IPCCは、2007年12月、「人為的気候変動に関する知識の構築、普及、変動への対応に必要な基礎の構築」というIPCCの作業と努力に対し、米国のアル・ゴア元副大統領とともに、ノーベル平和賞を受賞した。
IPCC-28: 2008年4月9-10日、ハンガリー・ブダペストで開催され、現在のWG体制の維持とAR5の作成について合意した。また、AR5での新シナリオの顕著な利用を可能にするため、パネルは、議長団に対し、WG I報告書を2013年の早い時期に提供し、他のWG報告書およびSYRを2014年の可能な限り早い時期に完成させるよう要請した。
IPCC-29: IPCC設立20周年の記念会合にもあたる本会合は、2008年8月31日-9月4日、スイスのジュネーブで開催された。この時点で、パネルは新しいIPCC議長団とTFBを選出しており、Rajendra Pachauri(インド)がIPCC議長に再選された。パネルは、IPCCの将来に関する議論を継続し、ノーベル平和賞の賞金を基に、開発途上国出身の若い気候変動科学者を対象とした奨学金制度の創設で合意した。
IPCC-30: 2009年4月21-23日、トルコ・アンタルヤで開催された。パネルは、この会議では近い将来のIPCCのありかたを中心に議論し、AR5スコーピング会議の指針を提示した。スコーピング会議は2009年7月13-17日、イタリアのベニスで開催された。
IPCC-31: 2009年10月26-29日、インドネシア・バリで開催された。議論の焦点は、ベニスのスコーピング会議参加者が作成したAR5の各章の概要案の承認であった。さらに、パネルは、開発途上国および経済移行国の科学者の参加、電子技術の活用、IPCCの長期展望など、IPCC-30の決定の実施進捗状況を検討した。
インターアカデミーカウンシル(IAC)のレビュー:AR4の不正確な記述をめぐるIPCCへの批判や、こうした批判に対するパネルの対応ぶりを受けて、国連事務総長のBan Ki-MoonおよびIPCC議長のRajendra Pachauriは、IPCCのプロセスおよび手順について、第三者レビューを行い、IPCCの強化と報告書の質の確保を図る勧告を提出するよう、IACに要請した。IACは、2010年8月、レビュー結果をまとめた報告書を提出。IACのレビューは特に次の点について勧告している:IPCCの管理体制;危機対応計画を含めたコミュニケーション戦略;参加者の選出基準や評価対象の科学技術情報のタイプを含めた透明性;WG間の不確実性に関する定義の一貫性。
IPCC-32: 2010年10月11-14日、韓国・釜山で開催され、IACレビュー勧告を審議した。パネルは、いわゆる「灰色文献」や不確実性の扱い、過去の報告書での誤記対応プロセスなど、提案に対する多数の決定を採択した。パネルは、さらなる検討が必要な提案を議論するため、プロセスと手順、利害相反(COI)政策、ガバナンスと管理に関するタスクグループを設立した。また、AR5 SYRの概要改訂版が受理された。
IPCC-33: 2011年5月10-13日、アラブ首長国連合・アブダビで開催され、主にIPCCのプロセスや手順に関するIACレビューのフォローアップに焦点が当てられた。 パネルは、執行委員会を設立、COI政策を採択し、IPCC報告書の手順に数件の変更を加えた。また、パネルは、SRRENおよびそのSPMに関するWG IIIの行動を承認し、AR5の進捗状況を検討した。
IPCC-34: 2011年11月18-19日、ウガンダ・カンパラで開催され、IPCCの評価報告書の作成・レビュー・受理・採択・承認・刊行のための手順の改訂版を採択し、COI政策の実施手順および公表様式を採択した。
IPCC-35: 2012年6月6-9日、スイス・ジュネーブで開催された。同会議は、IAC勧告に関するパネルの審議を締めくくるものであり、IPCC事務局とTSUの機能、コミュニケーション戦略が承認された。
WG I-12・IPCC-36: 2013年9月23-26日、スウェーデン・ストックホルムで開催され、WG-1が「気候変動2013:自然科学的根拠」と題する作業部会のAR5 報告書を完成させた。その後、WG-1のSPMが承認され、テクニカルサマリー(技術要約)と附属書を含む報告書の本体が受諾された。
IPCC-37: 2013年10月14-17日、グルジア・バトゥミで開催され、「2006年国別温暖化ガスインベントリ・ガイドラインに対する2013年追補:湿地」と「2013年議定書補足的方法論ガイダンス」の2つの方法論報告書が採択された。また、様々な手続き上の問題についても討議し、IPCCの将来像についても初期の議論を行った。
WG II-10・IPCC-38: 2014年3月25-29日、日本・横浜で開催され、「気候変動2014:影響・適応・脆弱性」と題した第2作業部会(WG II)のAR5報告書が完成した。その後、WG IIのSPMが承認され、技術要約と附属書を含む報告書本体も受理された。
WG III-12およびIPCC-39:2014年4月7-12日、ドイツ・ベルリンで開催され、「気候変動2014:気候変動の緩和」と題した第3作業部会(WG III)のAR5報告書が完成した。その後、WG IIIのSPMが承認され、技術要約と附属書を含む報告書本体も受理された。また、IPCCの今後の作業やCOI等についての討議が行われた他、TGFの初会合が4月6日に開催された。
IPCC-40 報告書
10月27日(月)、デンマークのRasmus Helveg Petersen気候・エネルギー・建設大臣議長が開会宣言を行い、参加者に対する歓迎の挨拶を述べながら、「気候変動を無視するのは、あまりに危険だ」とし、世界がその責任をとらなければならないと述べた。また、緑の気候基金(GCF)に対して約7000万米ドルの拠出を定めたデンマークの新たな気候法案や、経済成長を遂げつつ1990年比で温室効果ガス(GHG)を38%削減するという目標など、同国のコミットメントを紹介した。
デンマークのKirsten Brosbøl環境大臣は、気候変動の“ゾッとするような現実”の影響は地球規模で加速度的に発生していると強調し、極端な降雨や洪水がデンマークでも発生していると述べ、各国の政府が主に行動する責任を有しているものの、企業やNGO,市民のメンバーが皆で団結し、“各自の役割を果たさなければならない”のだと指摘した。
コペンハーゲン市長のFrank Jensenは、気候変動防止に向けた世界首長サミットで最近協定が成立したことを指摘し、コペンハーゲン市としても他の都市も各地域に合わせたイノベーションを導入するよう支援していきたいという意気込みを示すとともに、コペンハーゲン市のCO2排出量40%削減目標や建物の冷房用に港湾の水を活用するという事例を挙げつつ、民間企業や研究機関と連携を図り、持続可能なソリューションを出すよう要望した。
世界気象機関(WMO)のJeremiah Lengoasa事務局長代理は、国連気候サミットにIPCCが参加したことはAR5の知見を伝える上で大きな成功を収めたと述べ、そうしたコミュニケーションこそIPCCの重要な責務であると強調した。また、IPCCのコミュニケーション戦略の実施計画を実現する上で、WMOとしては「WMO Bulletin」等を通じて取り組んでいくと強調した。
国連環境計画(UNEP)のAchim Steiner事務局長の代理で、John Christensenは、人為起源の気候変動に関して現実的で確固たる結論を示す評価報告書を作成するべく、IPCCが “甚大なる努力”を行ったと述べ、どのように気候変動に対応するのが最善なのか、タイムリーで科学的な対応策を提示しているとの評価を示した。 また、排出削減の行動を講じないことで、人々の生活や人命等の面で被る代償は “取り返しがつかない“と強調し、後々に2℃目標を実現するために策を講じるには、もっと巨額の費用がかかるだろうと述べた。
IPCCのRajendra Pachauri議長は、AR5及びそのSYRの重要性について、行動を起こすために情報に基づいた選択肢を提供する一方で、行動を起こさなかった場合に生じる深刻な影響を強調するものだと指摘した。また、SYRでは、IPCCの3つの作業部会の報告書や2011年の特別報告書のエッセンスを抽出し、様々な知見を総合的に示すとともに、科学的な堅牢さを担保するために新たなベンチマークを提供していると強調した。また、様々な課題が存在することを軽視することはできないものの、まだ時間は残されているとして、深刻を極める影響を回避するべく、漂う絶望感を克服するよう呼びかけた。
UNFCCCのChristiana Figueres事務局長はビデオメッセージの中で、これまでに発表されている気候変動に関する報告書の中でも、AR5は最も影響力の大きな報告書であり、科学コミュニティの中でも98%ものコンセンサスを得ていると確認していると述べ、地球規模で気候変動対策が増加しつつあると強調した。また、科学者に向けて、不完全であっても気候変動に関するエヴィデンスや新たなソリューションが見つかれば、それを公表し続けるよう呼びかけ、各国政府に向けて、世界中の人々に最良の成果をもたらすような意思決定を行って人類の役に立つ要請した。
その後、暫定議題 (IPCC-Xl/Doc. 1、Rev.1) がそのまま承認された。
IPCC第39回総会報告書の承認
月曜午前、 IPCC事務局のRenate ChristがIPCC第39回総会報告書ドラフト(IPCC-Xl/Doc. 3)を紹介した。 サウジアラビア、 ベネズエラ、ボリビアは、WG III 報告書に関する留保を改めて表明した。Christ書記はサウジアラビア及びボリビアの留保はすでにIPCC-39報告書に記されており、ベネズエラの留保も追記されると返答した。Pachauri 議長は、これらの留保事項はIPCC-40報告書にも記載されることを伝えた。報告書ドラフトは修正後、受理された。
IPCC 事業予算
月曜日に、 IPCC事務局のChristからIPCC信託基金の事業予算に関する議題項目 (IPCC-Xl/Doc. 2 及び 追加.1)の紹介があり、この項目はIPCC 副議長 Ismail Elgizouli (スーダン) 及び Nicolas Bériot (フランス)が共同議長を務める財務タスクチームでの審議に付された。
土曜日午前、 IPCC事務局のChristから及び IPCCのElgizouli副議長が修正予算を提示し、気候変動・食糧・農業に関する専門家小会合やAR5に学んだ教訓に関する会合、 及び TFIの作業に関する会合についても備える内容になっていると言及した。また、 Christ 書記は、2016-2017年度暫定予算について、パネルが必要と判断する場合は修正すると言及した。その後、パネルによりIPCC 事業予算が承認された。
IPCC第5次評価報告書(AR5): SYRドラフト採択及びSYR ・SPMの承認に関する審議
月曜日午前、 一行ごとのSYR・SPMの審議が始められた。Pachauri 議長は、参加者の協力の精神に賛辞を送り、科学と政策決定者との間でお互いに生産的な連携を図るIPCCの作業を尊重・支持するよう要請した。
サウジアラビアとボリビアは、すでに合意が成立した問題についての議論を再開することに釘を刺し、持続可能な開発や適応・緩和といった政治に絡む問題については各々調整を図ることが重要だと強調した。 サウジアラビアは、様々なセクター間での調整も重要だと強調した。Pachauri 議長は、合意到達のためには、あまりに強硬で柔軟性に欠くようなポジションを取らないよう参加者に要請した。
序論: SYR・SPMが報告書本体の構成に則っていると記した文章について、ボリビアが、スロべニアの支持を受けつつ、“様々なシステムにおける変革と変化”と表題がつけられた項目の記載に疑義を唱えた。また、ベネズエラ、 ニカラグア 及び サウジアラビアとともに、変革との関連で持続可能な開発という概念を反映させるべきだと主張した。
サウジアラビアは、「適応及び緩和」という表題に関して、“措置(measures)”という用語ではなく、“オプション”と言及する代案を提起した。関連する項目の議論の後、“様々なシステムにおける変革及び変化”という文言に代えて、「適応、 緩和 及び持続可能な開発に向けた将来経路」とし、“適応 及び 緩和 措置”という文言に代えて「適応 及び 緩和」という表題を付けることとなった。
サウジアラビアは、序文についても“不確実性を示す用語がなく事実に関するステートメントとして知見をまとめている”として反対し、不確実性が言及されない記載に警告を発した。Pachauri議長は、この文章は、IPCC AR5における不確実性に関する整合的な取扱いについての主幹執筆者向けの指針メモに由来するものだと説明し、WG I 共同議長のThomas Stockerもこの文章がすでに3つの作業部会で承認済みであり、各部会評価報告書のSPMにもそのように記載されているとして改めて参加者に想起した。英国は、既に合意済みのテキストを受け入れるよう呼びかけ、サウジアラビアも提示された通りの文章を維持することで同意した。
UNFCCC第2条に関する情報についての囲み記事(ボックス)の案については、さらなる検討に値するということで合意した。Ronald Flipphi(オランダ) 及び Kenneth Kerr (トリニダード・トバゴ)が共同議長を務める非公式グループが発足し、木曜から土曜日までの間に数回の会合が行われた。その初会合では、報告書本体の囲み記事を入れ込むか、簡易版をSPMに入れ込むかという点について意見交換が行われた。非公式グループでは、報告書本体の囲み記事をもっと目立たせるという案も検討された。参加者数名が適応及び持続可能な開発についての文言が欠如しているとの懸念を示した。その後、SYR本文の囲み記事について項目ごとに議論し、数々の提案や文章案を出されたが、とりわけ、UNFCCCの下での長期気温目標の点検に関する記述やこの問題に絡んで1.5℃目標や2015年までの目標に関する記載を盛り込むべきか否かという点が議論された。一部の参加者は、関連するUNFCCCの決定書の文言を一言一句借用するという案を支持したが、“政治には立ち入らない形で”政治色のない一般的な文言の方が良いという意見もあった。 非公式部会の議論は長時間に及び、コンタクトグループの共同議長や執筆陣によって報告書本体の囲み記事(ボックス)については、諸提案や出席者の意見を勘案しつつ、数々の修正が行われた。
土曜日午後のプレナリー(全体会合)では、 “UNFCCC第2条に関する情報についての背景:囲み記事(ボックス)SPM.1”について執筆陣による修正案がパネルに提起された。報告書本体の囲み記事の対応については、英国、 オーストラリア、 米国、 日本、 カナダ 及びEUが、執筆陣のテキストを議論のたたき台として利用することに留保を示した。ノルウェー、 スウェーデン及び チリは、この文章をIPCCの手順に則り、他のSPMで行ったように対処することを提案したが、ドイツが、これを非公式協議に持ち帰るよう提案した。一方、遅くまで会議が続き、執筆陣による提案を尊重する意味を強調し、サウジアラビア、 ボリビア、 ベネズエラ 及び 中国は、提案された通りに同文章を受理することを提案した。IPCC副議長のJean-Pascal Van Ypersele (ベルギー) は、執筆陣が書面による提案という形をとって情報提供を行って初めてIPCCのメンバーが助言を求められるのだとして、この文章に至った過程を説明したが、Pachauri 議長は見解の違いや時間不足を考慮し、囲み記事を削除することを提案した。ノルウェー、 ドイツ、 ベネズエラ、中国、チリは、もう一度コンセンサスを得ようと提案したが、ペルー 米国、 オーストラリア、 英国、サウジアラビアは、囲み記事の情報が無くなることは遺憾だとしながらも削除案に同意した。Pachauri 議長は、報告書本体およびSPMの囲み記事をともに削除し、報告書にはUNFCCC第2条に係わる情報が盛り込まれたと記載することを提案し、パネルの合意を受けた。
最終版 SYR SPMテキスト: 序論の項目には関係する特別報告書も含め、IPCCの3つの作業部会の各報告書に基づき、SYRがAR5の最終篇として気候変動に関する総合的な見解を示していると記載された。また、SPMが報告書本体の構成に倣い、主要な評価報告書の知見における確実性については定量的な確信度(非常に低い~非常に高い)で示し、できるだけ数値的な可能性についても(ほぼありえない~ほぼ確実)と表現すると記載された。
1. 観測された変化 及びその要因:項目冒頭文については何の修正も入らなかった。
最終版 SYR SPM テキスト: 項目見出しで、以下のように記載された。:「気候システムに対する人間の影響は明瞭であり、近年の人為起源の温室効果ガス(GHG)の排出量は史上最高となっている。近年の気候変動は人間及び自然システムに対して広範囲にわたる影響を及ぼしてきた。」
1.1: 気候システムの観測された変化: 「気候システムの温暖化には疑う余地がなく、未曾有の変化が観測された」と記された冒頭文について、米国 及び 英国は、AR5の重要な知見の一つである、海洋酸性化についても言及するよう提案した。一方、執筆陣は、人為起源の排出量について記している次の冒頭文に挿入する方が良いと主張した。結局、記載どおりの冒頭文とすることで合意した。
気候システムに蓄えられたエネルギー増大のうち海洋温暖化が圧倒的だとするパラグラフについては、 オランダが、ノルウェー 及び ドイツの支持を受け、政策決定者に気候システムがどのように働くのか実証するため、大気中の熱量と海洋の熱量との比較を示した報告書本体の図1. 2を入れるよう求めた。また、海洋温暖化が気候システム蓄えられたエネルギー増大のうちの“90%以上”と記すのではなく“93%”を占め、大気中に蓄えられるのは全エネルギーの1%であると明記することを提案した。1971年~2010年の期間に蓄積されたエネルギーのうち、大気中に蓄えられたエネルギーはわずか1%だけとする文章を追加し、残りのパラグラフはそのまま維持するということで、合意が成された。また、 SPMの報告書本体の図自体を実際に挿入せずに、その図について言及するということで合意した。
海洋のCO2吸収の増加とそれによる海洋酸性化について記載したパラグラフについても多くの議論が行われた。スイス、米国、アイルランド等の国々は、“産業革命以降、海水のpH濃度が0.1下がるのは水素イオン濃度が26%上昇するのに等しい”とする一文を追加するという案について、この文章はあまりにテクニカルだとの印象を受けると述べた。この文章に対する改善案が数々出されたが、米国が酸性化について具体的に明記する方が良いと提案し、ノルウェーの支持を受けた。さらに、ノルウェーは、テクニカルな文章は脚注に入れた上で、ドイツ、オランダ 及び 英国とともに、pHレベルが0.1上昇することは重要な意味をもつと記載するべきだと提案した。
WG IのStocker共同議長は、脚注は承認済みの WG I テキストにある「pHは酸性化を示す指数であり、1単位あたりpH1の低下は水素イオン濃度(酸性レベル)10倍の増加に等しい」と記された文章を使用することを提案した。 これに対して、米国 及び ドイツ は、それでもテクニカル過ぎる文章だとして反対を唱えた。英国は、米国、ベルギー、セントルシアの支持を受け、「海洋酸性化は現在、過去6500万年間に例を見ない速度で進行している」と記す一文の追加を提案したが、ロシア、 スイス、サウジアラビア 及び ブラジルが反対した。執筆者の一人が、そのように長期の時間尺についてSYRの中で明記するには証拠が不足していると主張した。
本件については、小グループでの議論の後、「産業革命が始まって以来、海洋のCO2吸収は海洋酸性化を招き、海表面水pH濃度が0.1低下(確信度高)したが、これは水素イオン濃度で測定される海洋酸性化が26%上昇したに等しい」と記す承認済みテキストで合意した。同テキストは、さらに詳細が記された報告書本体について言及している。
「過去20年間にわたり、グリーンランド及び南極の氷床の質量は減少しており、氷河はほぼ世界全域で縮小を続けている。また、北極の海氷面積及び北半球の春季の積雪面積は減少し続けている」と記す文章について、ノルウェーは、「グリーンランド及び南極の氷床の質量が“ますます勢いを増しながら”減少」と記載することを提案したが、セントルシアは、“加速度的に”と表記する方が良いと主張した。執筆者は提示されている文章には “確実な証拠がある”と説明した。スペインは、メキシコとともに、氷圏の変化に関する報告書本体図1.1から採用した図に数値を入れるよう要請したが、執筆陣はさらに詳細を書くにはかなりのスペースが必要となり、SPMにおいては不適当であると返答した。
英国は、フランスとともに、この文章と”南極周辺の海氷面積の上昇傾向”を記した次の文章とのバランスが取れていないと指摘し、いま北極で起こっていることの方が南極で起こっていることよりも重大性が大きいと強調し、WGI SPMの記載を重視するとともに、2つの地域の海氷の問題を数値で示すよう提案した。 その後の協議の後、執筆陣から、この文章を“グリーンランド及び南極の氷床の質量減少、氷河の縮小、及び北半球の春季の積雪量の減少”、“海氷面積の変化における北極と南極の違い”という2つのパラグラフに分割する案が出された。米国は、AR5の締め切り日以降に発表された、南極周辺の海氷面積の増加傾向に疑問を呈する最近の研究について触れ、この点について非常に具体的な数値を盛り込むことがはたして有効なのか疑義を唱えた。ある執筆者が、これらの最近の研究はまだきちんと評価されておらず異論もあるとし、文中の数値は10年間の年率平均値としてはまだ有効な数値といえると説明した。
出席者は、北極及び南極の両方における10年間の平均海氷面積の年間変化率を%で表記することも含め、執筆陣が提案した修正テキスト通りにすることで合意した。
また、19世紀半ば以降の海面上昇率はそれ以前の2000年間の上昇率よりも大きかったと記す文章については、オランダが、1901年以降の世界の平均海面上昇の加速度を反映させるよう求めたが、ある執筆者が地域差や10年単位の変動があることを指摘し、提示されたテキスト通りの文章で合意が成された。
図SPM.1 (a) 陸上及び海面温度; (b) 海面水位の変化; (c)大気中GHG濃度; (d)世界の人為起源のCO2排出量の4つのパネル構成図については、火曜日のプレナリー(全体会合)に始まり多く議論が行われた。北極及び南極の海氷については報告書本体の図表を持ってくるという件に関する多くの提案に対して、WGIのStocker共同議長が、北極と南極のデータの性質と品質に違いがあることを強調し、正確な視点からこの図を掲載するために求められる科学的根拠を示すスペースが足りないと指摘した。結局、報告書本体の図表は掲載しないこととなった。
また、世界の人為起源のCO2排出量に関するパネル (d)を気候変動の要因に関する小項目に移動させるべきか、あるいは現在の気候システムの観測された変化にに関する項目の中の現在の場所に残すべきかという点についても議論がなされた。
韓国、中国、ベネズエラ、ニカラグア、サウジアラビア及びインドは、この項目にこのパネルは関係がないと指摘し、図の削除を提案した。他方、2つの小項目間をつなぐ役割を果たしており、この図の他のパネルとの時間尺上の整合性の観点からも、執筆陣はパネルの維持を支持した。
サウジアラビアは、土地利用による排出量と化石燃料燃焼、セメント製造を抜き出すことに反対し、パネルを残す場合はすべての排出源について記載すべきだと提案した。
イタリアは、パネルで主要な排出源について記載することを提案した。米国は、排出セクターよりも温室効果ガス(GHG)の種別を記載することを提案した。中国は、本件についてさらに協議することを提案した。Katrine Krogh Andersen(デンマーク)及び Arthur Rolle (バハマ) が共同議長を務める小グループで本件についての追加協議が複数回行われた。
金曜日夜、 Rolle共同議長は、同グループ協議では世界の人為起源のCO2排出量に関するパネル (d)のキャプション(説明文)及びサブタイトルについて合意に至ることが出来なかったとし、合意に達するための道筋はすべて断たれたと報告した。また、同グループ協議が道を踏み込むと、科学の堅牢性の領域を踏み越えてしまうとの印象を抱いていることを伝えた。
図及び図のキャプションについては、さらに検討するため全体会合に戻されることになったが、ある執筆者は、この図が各作業部会の報告の総合体であり、気候システムにおける主要な指標及び人間の影響を理解する上で特に重要なCO2の排出量についての観察結果を示すものだと説明した上で、気候変動の主要な駆動要因としてCO2に焦点を絞ることは、その大気中の残存期間の長さを考えると妥当であるとの見方を示した。
一方、この図に反対するサウジアラビアは、パネルにはCO2以外の温室効果ガスに関するデータが入っていないとし、他のGHGの種類については1970年以前の観測データが無いため、排出データが評価されていないと記すサブタイトルを追加するよう要請した。 さらに、キャプションで明確に説明しない場合、パネル(a)-(c) 及び (d) 間の相関関係を正確に把握できなくなる可能性があると警告した。WGI Stocker共同議長は、「1850~1970年までの期間のCH4及びN2Oに関する定量的な情報は少ない」と記すパネル(d)のサブタイトルに注目するよう呼びかけた。Stocker共同議長は、すべての温室効果ガスの種類を整合性のある1枚の図に収めることは不可能であるとし、「パネル (a)-(c) の観察結果及びパネル (d)の排出量との間の複雑な関係性”が項目 1. 2 及び 項目1で取り上げられている」と記載したキャプションの新たな説明文を指摘した。
オーストリアは、 スウェーデンの支持を受け、この文章をもっと目立たせ、キャプションの冒頭に持ってくるよう提案した。中国、ノルウェー、スウェーデン、 EU、 デンマーク、 カナダ、 英国は、 アイルランド、オランダ、 ニュージーランド、 チリ等は図の承認を要請した。
サウジアラビアは、「他の種類のGHGについてはデータの制限により評価が行われなかった」という文言を入れることを提案したが、執筆陣は科学的に正確な記述ではないだろうと述べた。その後、長時間に及ぶ議論の末、サウジアラビアは、妥協の精神により、オーストリアの修正案の通りに図を受け入れると述べた。さらに些少な変更を行って 図 SPM.1.が承認された。
最終版 SYR SPM テキスト: この小項目の冒頭で「気候システムの温暖化は、疑いの余地がなく、1950年以降に観測された変化の多くは過去数十年~数千年の期間において前例がないものである。大気と海洋は温暖化し、積雪や雪氷の量は減少し、海面水位は上昇している」と記された。小項目には、以下のパラグラフが含まれる。
• 過去30年間の10年ごとに温暖化が進展し、1850年以降のどの10年間よりも地上気温は上昇している。
• 各10年間と毎年の変動性を考慮した短期的な観測記録を基にしたトレンドの開始日および終了日の感度(感受性)。
•海洋温暖化が1971年~2010年までの間のエネルギー蓄積の90%以上を占める。
この小項目では、特に、降雨量の増加や、海洋のCO2吸収に起因する海洋酸性化、グリーンランド及び南極の氷床の質量減少、地球規模の氷河の減少、北半球の春季の積雪量減少、1901年~2010年の世界平均海面上昇幅等についても取り上げている。
また、小項目には、以下のパネル図も盛り込まれている。陸表および海表を合わせた世界平均温度の異常値;世界の海面水位の平均変化; 世界のGHG平均濃度; 世界の人為起源CO2排出量、及び累積CO2排出量に関する小パネル。
2. 将来の気候変動、リスク及び影響: 冒頭文として“適応及びGHG排出量の“大幅”かつ持続的な削減の組み合わせによって気候変動のリスクを抑制可能” と記された点について、サウジアラビアが、 “大幅”という文言が適応と排出削減の両方に係るよう移動するか、WG II・SPMの文言に戻すかのどちらかにするべきだと提案し、エルサルバドルの支持を受けた。セントルシアは、「あらゆるレベルの適応及び緩和において悪影響による一部のリスクが残る」と記されたWG II・SPMからの文章を追加するよう提案したが、カナダがこれに反対した。パネルではこれらの提案を議題として取り上げず、執筆陣が提案した軽微な修正点を反映させた冒頭文について合意した。
最終版 SYR SPM テキスト:冒頭で「GHGの排出の継続は気候システムの更なる温暖化及び長期的に続く変化の原因となり、気候変動を抑制するには大幅で持続的なGHG削減が求められる。」と記された。
2.1: 将来の気候の主要な駆動要因: GHGの排出量と大気中濃度や大気汚染物質の排出量、土地利用変化について、代表的濃度経路 (RCP)が4つの異なる21世紀の進化を表すと記された一文については多くの議論がなされた。
ニュージーランドが“進化(evolutions)”ではなく“軌跡(trajectories)”という表現に変えるべきだと提案したが、 カナダが反対した。また、ノルウェーは、 “経路(pathways)”または“具現化(realizations)”という表現の方が良いと主張した。そこで、ある執筆者が“経路(pathways)”という表記を提案し、合意に至った。
土地利用変化については、 サウジアラビアが、排出源に関する包括的な記述が必要であると主張し、農業・林業・他の土地利用 (AFOLU)に関する記述の中に盛り込むよう要請した。執筆者が、サウジアラビアの主張に配慮するために、“土地利用”と言及する際に、新規植林の記述の中に盛り込むか “変化”という語を削除することを提案した。 ブラジル、 アルゼンチン、日本は、 この案に疑義を唱えたが、土地利用に関する経路と記述するのが最善策だとする執筆者の説明を受け、結局、合意した。
非常に低位の放射強制力へと導く緩和シナリオ(RCP2. 6) や2つの安定化シナリオ(RCP4.5及びRCP6.0)、非常に高位のGHG 排出量になるシナリオ (RCP8.5)を含めた様々なRCPについて記す一文については、 カナダが、フィンランド、セントルシア 及び 英国の支持を受け、“厳しい緩和シナリオ”及び “2つの中間シナリオ”と簡潔に表現することを提案し、この案が受け入れられた。
CO2の累積排出量が気温上昇のピーク期を決定づけるため、今後数十年間の排出量が高くなれば、気温上昇を同じ程度まで抑制するには、その後の数十年間の排出量はより低くなるという含意をもつと記された文章についても議論があった。
この文章では不確実性について一切あらわされていないとし、 英国は “含意をもつ”という言葉ではなく“必要とする”という言葉を用いるよう提案した。GHGの排出量ではなく、CO2 排出量を指標として使うべきではないかとのサウジアラビアの疑問に対しては、執筆陣が、気温上昇のピーク期の決定に興味深い指標となるのはCO2のような長寿命のガスだけであると説明した。中国は、サウジアラビアとともに、「所与の気温上昇の水準はCO2の累積排出量の幅に関連しており、例えば、今後数十年間の排出量が高くなれば気温上昇を同じ程度まで抑制するため、その後の排出量はより低くなるという含意をもつ」と記載された承認済みのWG I SPMの文言を使用することを提案し、出席者も中国とサウジアラビアの案で合意した。また、 この幅のCO2排出量を定量化するにはCO2以外の駆動要因も考慮する必要があると補足説明しているWGI SPMの脚注を使用することでも合意した。
火曜日夕方から、 “1861年―1880年との比較で、人為起源の気温上昇すべてを2℃未満に抑制するには、1870年以降のすべての人為起源の排出源からのCO2累積排出量を約2900 GtCO2未満に抑える必要がある”とし、“2011年までに、そのうちの3分の2は既に排出されている” と記されたパラグラフに関するパネル討議が開始された。WG IのStocker共同議長は、これは主にWG Iの文言をベースとしているものの、WG IIIでの作業も盛り込んで総合的な記述となっていると説明し、執筆陣が最も政策に関連する点として質問されたのが、人為起源の気温上昇を抑制するための幅を2°C未満と定量的に明記した意味であったと言及した。
ブラジルは、 “必要がある”との表現は余りに規範的であると反対し、“関連がある”とか“….によって特徴づけられる”という表記を押すスイスや日本などの案の方が良いと主張した。執筆陣からは、“必要がある”という表現は各シナリオや政策を参照するものではないが、気候システムに関する事実についての記述であるとの説明があり、WG Iの文言を採用するということで合意した。
この文言を明快にするべく様々な提案が寄せられたが、この幅はCO2以外の駆動要因に依拠すると言及することで執筆陣も合意した。また、執筆陣は、2℃未満になる可能性が高い”という表記ではなく、““2℃未満に気温上昇幅を抑制する”可能性>66%”と表記することを提案した。一方、バランスを取ることが重要だとして、サウジアラビアは、“>66%”というデータだけ記載することに反対を唱えた。一方、ノルウェー、英国、ドイツ、スウェーデン、オランダ、 チリ、日本、オーストリア等は、“>50%”や“>33%”という確率の情報も等しく記載するよう求めた。
米国は、「異なる可能性レベルの3つの異なる気温目標による累積CO2排出量に関する予算額」を示すSYR報告書本体から表2.2を持ってくることを提案した。執筆陣は、各作業部会が出したすべての可能性をパラグラフ内にまとめることはできないとして、追加で可能性のレベルについて脚注で言及することを提案した。
ノルウェー、 デンマーク、 英国、 ドイツ、 カナダ等の多くの国々が執筆陣の提案に賛同したが、サウジアラビアが反対した。ブラジル及びサウジアラビアの双方の懸念事項に関する議論が小グループの中で続けられ、水曜日午前、妥協案が出され、 パラグラフの文章を修正し、脚注2つ追加することでグループ内の合意に至ったことを米国が報告した。「人為起源の気温上昇全体を1861年―1880年との比較で2℃未満に抑制する可能性を66%以上にするには、すべての人為起源の排出源からの累積CO2排出量を約2900 GtCO2未満に抑えることが必要であることを、マルチモデルの結果が示している」が、「2011年までに約1900 GtCO2がすでに排出されている。」と記す修正案で、パネルの合意が得られた。 また、本文では“さらなる背景情報”について示す報告書本体表2.2を参照するよう記載している。脚注では、3000 GtCO2 及び 3300 GtCO2の代替的排出シナリオの下での気温上昇幅2℃抑制の可能性について指摘している。
最終版 SYR SPM テキスト: 「累積CO2排出量は主に21世紀後半までの世界の平均地表気温上昇を決定づけ、GHG排出量の予測は社会経済の発展や気候政策によって大いに変わる」と冒頭で記された。この小項目に含まれるパラグラフの内容: 人為起源GHG 排出量の予測に用いられるRCP;累積CO2排出量と世界の温度変化はほぼ比例する。また、「人為起源の気温上昇全体を1861年―1880年との比較で2℃未満に抑制する可能性を66%以上にするには、1870年以降のすべての人為起源の排出源からの累積CO2排出量を約2900 GtCO2未満に抑えることが必要であることをマルチモデルの結果が示している」とも記載された。
この小項目には、人為起源のCO2の年間排出量に関するRCPモデルとWG IIIの関連シナリオ分類図ならびに気温上昇と累積CO2排出量の対比を図示する図SPM.5が盛り込まれた。
2.2: 気候システムにおいて予測された変化: 「評価済みのすべての排出量シナリオにおいて21世紀にわたり、地上気温は上昇すると予測され、海洋の温暖化と酸性化が続き、世界の平均海面水位も上昇すると予測される」と記された冒頭文については、熱波及び極端な降雨現象に関する記載も入れることでパネルが合意した。
英国は変化率の規模や大きさは排出シナリオに依存するという一文を加えることを提案した。しかし、冒頭文は簡潔な方が良いとするWG Iの Stocker共同議長やサウジアラビアの提案を受け、英国案による文言追加前の修正版テキストにすることでパネル合意が成立した。
1986年-2005年の期間と比較した2016年-2035年の世界平均地上気温の変化については4つのRCPに類似しており、0.3℃~0.7℃の範囲内になる可能性が高いと記すパラグラフについても議論があった。この仮説は主要な火山の噴火活動や太陽の放射活動全体に長期的(secular)な変化が何ら発生しないことを前提していると説明する文章 については、 サウジアラビアが、この前提条件に“例えば、CH4やN2O等の自然排出排出源の変化”を追記するよう要請し、出席者もこれに合意した。
カナダ、 オーストラリア、 英国、南アフリカは、 この文脈の中で“長期的(secular)”という用語を使用するのは不適切であるとし、アイルランドが、その代わりに“unexpected(予期せぬ)”という語を使うことを提案し、合意が得られた
2081年-2100年の世界の地表気温変化の予測に関するパラグラフについては、RCP4.5モデルでは、2℃以上の気温上昇の発生についてどちらかといえば高い確信度があるとするWG Iの技術評価報告書やSPMは誤りであり、現在訂正を入れている最中であるとの説明が執筆者から入った。その後、 “高い確信度”ではなく、“中程度の確信度”の予測とする案の通り、同パラグラフが承認された。
世界の平均地表気温の上昇幅は、RCP2. 6モデルでは0.3-1. 7℃、RCP8.5では2.6-4.8℃となる可能性が高いとする記載について、日本は、他の RCPシナリオの上昇幅も明記するよう要請した。WG IのStocker共同議長はRCP4.5モデルの1.1-2.6℃幅とRCP6.0の1. 4-3.1°Cの幅も追加するよう提案し、合意となった。
また、時間尺を明記すべきだというサウジアラビア提案については、Stocker共同議長より“1986年-2005年に対して、21世紀末まで (2081年-2100年)”という文言を追加するよう提案があり、これをもって合意が成立した。
世界平均地上気温変化と世界平均海面水位変化に関するパネル図を含む図 SPM.6については、インドが、1950年以降のデータを反映させるよう求めた。
執筆者は、地上気温については「ありうる」ものの、同期間の海面水位のシミュレーションデータは入手できなかったと説明し、2つのパネルの整合性を維持する必要があると主張した。 その後、1900年まで時代を遡った地表気温の歴史的観測データを入れた複数のパネル図を盛り込んだ報告書本体の図 2.1を追加した。図の
キャプションとタイトルについては、 オランダが、図示された上昇を文中で反映するために、海面水位の“変化”ではなく“上昇”と言及するよう要請し、これが承認を受けた。
図のキャプションに対する脚注 については、“現在の理解に基づけば、南極氷床の海床部分の融解が始まった場合のみ、世界の平均海面水位は21世紀中に可能性が高いとされるレンジよりも大幅に上昇するだろう”という記述に関して、サウジアラビアが“現在の理解”とは何か疑義を唱えたのに対し、執筆者が“観察、 物理的な理解及びモデリング”と明確に詳述することを提案し、合意が成立した。
1986年-2005年及び2081年-2100年の期間における平均地表気温と平均降雨量の変化に関するパネル図のSPM.7についても出席者が議論した。図のキャプションで、予測モデルの潜在的な欠陥や不確実性に関する注意事項を追加すべきだとサウジアラビアが提案したが、 WG Iの Stocker共同議長が、オランダとともに、サウジの懸念事項は他の承認済みの図や評価報告書の本体でも採用された“マルチモデル平均”や“可能性の高いレンジ(幅)”といった用語を使うことで対処していると指摘した。図 SPM.7は軽微な編集上の修正を経て承認された。
海洋酸性化について、“すべての RCPシナリオで増加が予測され、海水pH値はRCP2. 6シナリオで0.06 ~0.07に減少、 RCP8.5シナリオで0.30~0.32 の幅で減少”とする文章については、 日本が、他の2つのシナリオのデータも同様に記載するよう要請した。ドイツは、セントルシアとともに、すべてのRCPシナリオで海水pH値が減少するとの誤解を生じさせると述べ、RCP2. 6シナリオでは海洋酸性化 は21世紀半ば以降、ゆっくりと始まっている点を指摘した。執筆陣は、これらの懸念事項を反映させた修正テキストを提案し、出席者の合意が得られた。
“RCP8.5シナリオでは、夏季の北極海で氷がほとんど無くなり、2050年までに9月の海氷が最も少なくなる可能性が高い”と記された文章については、カナダがこのシナリオの記述の妥当性には疑問があると主張した。これを受けて、ある執筆者が、“気象学的な平均状態を最も近似的に生成する複数のモデルのサブセットに関する評価と1979-2012年までの北極の海氷面積の傾向に基づく”というWG I SPMのテキスト脚注文を追加することを提案し、この案が受け入れられた。スウェーデンは、縮小する海氷面積の量を捉えるべきだと提案したが、執筆者は細かい内容を記述するとバランスが失われると対応した。残りのパラグラフは提案通りに承認された。
21世紀にかけて世界の平均海面水位は上昇が続くとの予測に関するパラグラフでは、サウジアラビアが、AR4以降、この問題に関する科学が著しく進歩したことを反映する文章を追加するよう提案した。 WG I のStocker共同議長は、SYRに盛り込むには新見解は複雑すぎる上、WG I評価報告書には盛り込まれていると返答した。 そこで“AR4以降、海面水位の変化についての理解と予測は著しく向上した”と言及するとともに、“1986年-2005年の期間と比べて、2081年-2100年の期間に”海面水位はRCP2.6シナリオで 0.26~0.55メートル、 RCP8.5で0.45~0.82メートル上昇する可能性があると記載することを提案した。
最終版 SYR SPM テキスト: 小項目の冒頭文は「21世紀にわたり、すべての評価済み排出シナリオで、地表気温が上昇すると予測される。多くの地域において、熱波が長期化・頻発し、極端な降雨は激化・頻発する」と記載。
この項目の注目パラグラフ:
- 人為起源の排出量及び自然気候変動性に起因する過去および未来に係わる温暖化。
- 2100年までに世界地上気温が1. 5°Cまたは2℃を超えて上昇する可能性。
• RCPシナリオの違いによる2100年までの世界平均地上気温の変化。
- 多くの陸域において熱い日の増加や寒い日の減少など気温の極端化に関する実質的な確信度。
• 降雨の変化に関する不均一性。
- 世界の海水温上昇の継続。
• すべてのRCPシナリオにおける海洋酸性化の増加。
- 年間を通しての北極海氷面積の縮小。
- 温度上昇に伴う地表付近の凍土縮小。
- 地球規模での氷河の体積減少及び 海面上昇の予測。
2.3: 変化する気候に起因する将来のリスクと影響: あらゆる発展レベルの国において気候変動が既存のリスクを増幅し、自然及び人間システムの新たなリスクを引き起こすと記載された冒頭文が激しい議論の的になった。ボリビアは、ベネズエラ、 チリ、 ニカラグア、エクアドル、 ブラジル、 キューバ、 ドミニカ、 中国、 メキシコ、アルゼンチン 及び モロッコとともに、 リスクが“より多くの人々とコミュニティに大きな不利益をもたらしている”との記載を追加するよう主張し、途上国に関する記述をもっと強調するようベネズエラとともに要求した。一方、スイスは、これらの懸念事項についてはすでに報告書本体で対応済みだと警告した。 図SPM.8 (地域別の主要リスク及びリスク低減のためのポテンシャル)については、
オーストリアが、全地域のリスク度の比較に関する限界と同時に各国のリスクに関する堅牢な評価報告書を実施する難しさを指摘した。米国は、“リスクはまだら模様に分散しており、あらゆる発展レベルの国において、一般的に恵まれない人々やコミュニティが被るリスクの方が大きい”と記す文章の追加を提案し、出席者も合意した。
米国は、英国の支持を受け、“気候の変化の加速化と規模の拡大は、適応の限度を超える可能性を高める”と記した文章を適応に関する項目の欄に移動することを提案した。しかし、セントルシア、スイス、バハマ 及び オーストリアがこれに反対を唱え、この意見で合意がまとまり、この文章は適応経路の特徴に関する小項目 3.3の冒頭に入れることとなった。
“気候変動の影響リスクは気候変動の規模と速度、ならびに影響を被る人間と自然のシステムの脆弱性と曝露に依存する”という一文についても議論が行われた。オランダとトルコは、リスクの定義をめぐる懸念を表明。オランダが “危険(hazard)および脆弱性に対する被曝の組み合わせ”という定義を提案したのに対して、トルコは、“気候変動の確率”と記載することを提案した。こうした提案を受けて、WG IIのChristopher Field共同議長は、「気候関連の影響リスクは、気候関連のハザードと脆弱性、人間や自然の適応能力を含むシステムの曝露との間の相互作用が原因となると記した文章に変更する代替案を出した。スイス 及び ノルウェーは、気候変動の規模と速度について触れることが重要であると主張し、Field共同議長は、気候システムにおける温暖化の規模拡大やその他の変化に関する次の文章で言及することを提案し、温暖化の速度に関する言及を追加して承認に至った。
“CO2排出ひいては海洋酸性化を含む気候変化の速度や規模を抑制することによって、気候変動の全般的な影響リスクは低減可能である” と記された文章についても議論があった。スイス、 ボリビア、サウジアラビア、 ベネズエラ 及び オーストラリアは、“CO2”ではなく“GHG”の 排出量という記載に変更する案を支持した。 米国は、“気候変化”の速度と規模に言及したSYR・SPMの原文の方が明確であるとの所見を述べ、そのように変更することがパネル合意となった。
オランダは、米国の支持を受け、リスク決定に関する新たな文章を挿入することを提案した。執筆者やWG IIのField共同議長がさらに提案があり、「発生する確率は低いが大きな影響を招く結果を含めて、影響に関する最大幅を評価することがリスクを評価する上で重要であるとの一文が付された。
「ほとんどの地形において、現在および高速で進行すると予測される気候変動に対応できるような十分な速さで植物が自然に移動(move)することはできない」と記された文章について、カナダが、日本とともに、 “植物種”は十分な速さで “移動(migrate)”できないと記載することを提案したが、オランダは“種子植物(seed plants)”という用語を使うよう提案した。 その後、議論が行われ、インドやバハマ等の提案も勘案し、「ほとんどの植物種は個々の地理的範囲を自然に移行することはできない」と修正することで合意した。
「沿岸システムは海面上昇のリスクにさらされている」とする文章については、 インドが、低地部についても言及することを提案し、合意となった。
地域別の主要なリスク及びリスク低減のポテンシャルに関する図SPM.8については、 米国が、適応に対する制約に関する文言を入れるよう要請したが、Field共同議長は将来における適応の見込みに対する確率を割り当てるのは困難だと指摘した。この図は提案された通り承認された。
キャプションについては、“現在の適応や高度に適応した状態を継続するため、各タイムフレームのリスク水準が示される”との記述について詳細な議論があった。
セントルシアは、WG II SPMに沿う形で “仮説に基づいた高度に適応した状態”と記す方が良いと主張し、方法論や前提となる仮説を明確にするよう求めた。これに対して、Field共同議長はWG II SPMの“仮説に基づいた”という文言は現時点との関係において使用されただけであるとし、“高度に適応した状態”という表現は将来の状況について言及する際には適切だと説明した。方法論については、執筆者が“高度に適応した状態”とは、合理性ある制約の中で出来るだけの最善の適応を指すと説明した。サウジアラビアは“高度に適応した状態”を定義するよう求め、Field共同議長は“現在または将来の適応に関する高水準を仮定しつつ”という文言を提案し、これで合意となった。
“必ずしもリスクレベルを地域的に比較することが出来ない”という記述については、オーストリアが、WG II SPM に沿って“特に地域による”という文言を提案し、若干の議論の後で合意された。
「4℃以上の世界の昇温は食糧需要の増大と相俟って世界および地域に大きな食料安全保障リスクをもたらす」という記述については、セントルシアが、熱帯地域で4℃以上の気温が上昇した場合の地域的な影響について取り上げるべきだと強調した。その後の非公式協議で、セントルシアの関心事項について以下の対応を行うことで出席者も合意した。: 文中の食糧安全保障の地域別リスクの記述の削除; “1986年-2005年よりも2081年-2100年には、すべての RCPシナリオにおいて、陸域で平均的に予測される昇温が世界平均昇温よりも大きい”と記された脚注挿入; オランダ提案を受けたSPM.7 (平均地表気温及び平均降雨の変化) の地域別予測の記載。
セントルシアは、海洋性における「種の再分布及び生物多様性の減少」は特に低緯度地帯の国々において漁業生産性や他の生態系サービスの持続的な供給に課題を投げかける」と記す文章に懸念を示した。これは“21世紀半ば前から後までに予測された気候変動のためである”との一文を追加することで参加者が合意し、些少な修正を経て、文章が承認された。
“気候変化は食糧生産にリスクをもたらす”と題された図 SPM・9の上図には、世界の最大潜在漁獲量の再分布予測が示されていたが、カナダはこの図がたった一つの気候モデルに依拠していることから根本的な不確実性に懸念を示し、キャプションでこの点に触れるよう要請した。図の説明文については、排出シナリオに関する特別報告書(SRES)の2001-2010年、2051-2060年の各10年平均を比較するA1.bシナリオを予測の中で使用している点に触れており、専門用語を少なく平易な文章にすべきだという要望に応じていると指摘した上で、ある執筆者は、SRESのA1.bの記述を“中程度から高い温暖化シナリオの下で単一気候モデルに基づく海洋の状態”と変更することを提案し、出席者の合意を得た。
「多くの地域、“特に低所得の途上国”において気候変動は健康障害の増加を招くと予想される」との文章について、インド、サウジアラビア、バハマ等が、脆弱性は必ずしも途上国の所得とは関係しないと指摘した。サウジアラビアからの質問に対して、執筆陣は低所得途上国の定義は世界銀行の分類から採ったと説明したが、サウジアラビアは世界銀行の所得分類を認めていないと明言し、認められるのは“先進国”と“途上国”という分類だけだと述べた。パネルは、承認済みのWG II SPMの文言を採用し、 “気候変動がない場合のベースラインと比較”という記述を文末に追加することで合意した。
都市や農村部で予想される気候変化の影響についてのパラグラフに関しては、 土砂崩れに関して記載するというエクアドル提案、都市部のリスクに関するリストに干ばつや大気汚染を追加するというバハマ提案を反映させることで合意した。また、増大するリスクに影響を受ける項目リストに“資産”を追加するという米国案でも合意された。
「気温上昇に伴って総合的な経済的被害が加速する」との記述については、日本が、スイスの支持を受け、「約3℃以上のさらなる温暖化に関して、評価が完了している定量的推計は数少ない」という言及を追加することを提案した。米国は、代案として「気候変動による世界経済の影響については推計が困難である」と記載することを提案した。スイスからの質問を受け、 モロッコの支持を受け、出席者は「世界経済の影響は“現在のところ” 推計が困難である」とする南アフリカ案を受入れた。また、“被害(damages)”の代わりに“損失(losses)”という用語を使うというインド案も受入れられた。
サウジアラビアからの質問を受け、 WG IIのField共同議長は、「貿易や国家間の関係といった国際的な局面も地域規模で見る気候変動リスクの理解のために重要である」と記すWG II SPMの文章をパラグラフの最後に追加することを提案し、このように追加することが合意された。
「貧困や経済的打撃などで紛争要因が増幅されるという十分な裏付けのある動機によって、内戦や集団間の暴力といった形で、気候変動は暴力闘争を間接的に増大させるリスクがある」という文章については、ベネズエラが、ニカラグア、ボリビア及びエクアドルとともに、“内戦”という記載に反対した。ニカラグアは、 この文章には政治的なメッセージが含まれているとして、一文の削除を提案した。そこで、執筆者が、 この文章は“科学的知見にはっきり焦点をあてている”と説明し、文言をそのまま残すべきであると強調した。IPCCのPachauri議長は、この点はWG II報告書の中でも最も強力な知見の一つだと指摘し、削除すべきではないと釘を刺した。
カナダは、内戦や集団間の暴力といった用語を使わない代替案を出した。執筆陣 からの追加修正事項を受け、“内戦や集団間暴力”という用語を削除した上で、このパラグラフが合意となった。
最終版 SYR SPM テキスト: この小項目の冒頭で「気候変動は既存のリスクを増幅し、自然や人間のシステムに対して新たに不均等に分散化したリスクを生む」と記載された。この小項目に盛り込まれたパラグラフ:
- 気候関連の危険(ハザード)の相互作用による気候関連の影響リスク
• 多くの種が絶滅するリスクの増大
- 食糧安全保障の悪化、世界の海洋生物の再分布や海洋生態系の減少
- 人間の健康への影響; 都市部の人、財産、経済、生態系のリスク増大
- 水、食糧安全保障、インフラ、農村部の農業所得に関する主な影響
• 昇温に伴う総合的な経済損失の加速化
• 強制移住が必要となる人口増、ならびに気候変動の間接的影響を受けた貧困や経済的打撃などの紛争要因の増幅を通じた暴力闘争のリスク増大
また、各地域に代表的な主なリスク、及び海洋の魚類および無脊椎動物の世界的な再分布に関する予測についての図も盛り込まれた。
2.4: 2100年以降の気候変動、不可逆性 及び急激な変化: 「排出が完全に停止した後、気温に対する人為的な寄与は何世紀にわたり高水準で維持される」と記されたパラグラフについては、多くの議論が行われた。サウジアラビアは、これはバランスに欠いた文章だとし、“用いられたシナリオに依存する”と言及したWG I・SPMの文言を利用する方が良いと述べた。チリは、この文章はシナリオとは何も関係がなく、むしろ気候システムにおけう異なる反応時間に関係すると述べた。WG IのStocker共同議長はシナリオに言及することに躊躇を示し、2100年以降も排出が続く場合に大幅な気温上昇が継続すると予想されている点に言及することを提案した。 EU、ノルウェー、ベルギー等は、長い期間、大気中にCO2が残存することに触れるよう提案した。また、ドイツの質問を受け、 執筆陣は、「2100年以降も依然として排出量が多い場合、大幅な気温上昇が続くと予想される」と記載することを提案した。
ベルギーは、“継続的な”ではなく“追加的な”昇温という文言に変更することを提案し、出席者も合意した。小グループでの議論が続けられ、その後、執筆陣が改訂版テキストを提示した。 “2100年以降もGHG排出量が依然として多い場合、大幅で追加的な昇温が予想される” と記された文案についての討議が続いたが、サウジアラビアが、“大幅”という修飾語の使用を疑問視した。サウジアラビアと執筆陣との協議の後、WG IのStocker共同議長は、“大幅な昇温”という言及を除いた同パラグラフの修正案を提示した。ノルウェーは、英国、 スロべニア等とともに、この削除に対する疑義を唱えた。執筆陣は、ノルウェー、英国、 チリ、 スロべニア、 ベルギー、 ドイツ等ともに、WG I・SPMの「RCP2.6を除くすべてのRCPシナリオでは2100年以降も“温暖化は続く” との記述を採用することを提案したが、サウジアラビアがこれに反対した。長時間の議論の末、上述の文言を使うことでパネル合意した。
最終版 SYR SPMテキスト: この 小項目冒頭で「人為起源の GHG排出が停止した場合でも何世紀にもわたり気候変動の多くの局面とそれらに関連する影響は継続し、温暖化の規模が拡大するにつれて急激で不可逆的な変化が発生するリスクは増大する」と記載された。
この小項目に含まれるパラグラフ: ほとんどの RCPシナリオ下で2100年以降も温暖化は継続; 気温が安定化した場合でも気候システムのすべての局面で安定化 が失われる可能性あり; CO2排出が続く場合の海洋酸性化の拡大; 将来の排出量次第で何世紀にもわたる地球規模の平均海面上昇が継続;中~高水準の排出シナリオで急激で不可逆的な地域変化のリスク増大。
3.適応、緩和、持続可能な開発の将来経路:サウジアラビア、カタール、ボリビア、中国は、本セクション全体についてコメントし、持続可能な開発が十分強調されていないとの懸念を表明、WGIIIで承認された表現を用いるよう要請した。さらにサウジアラビアは、全般に適応と緩和のバランスが良くないことにも懸念を表明した。
このセクションの表題に関し、ボリビアは、「システムの変換及び変化(Transformations and changes in systems)」を「持続可能な開発のための気候に耐性のある経路(climate-resilient pathways for sustainable development)」に置き換えることを提案した。執筆者は、「適応、緩和、持続可能な開発の将来経路(Future pathways for adaptation, mitigation and sustainable development)]を提案した。スイスは、これに異議を唱え、原文のままにしておきたいとし、「変換(transformation)」はAR5で新しく導入された概念の一つであり、既にWG報告書に記述されていると指摘した。追加審議の後、参加者は、執筆者の改定案通り改定した文案を承認した。
最終的なSYR SPMの文章:このセクションの冒頭は次の文章とする:
適応及び緩和は補完しあう戦略であり、気候変動のリスクを軽減し、管理する;
さらに次の文章とする:
次の数十年間での相当量の排出削減は:21世紀及びそれ以後の気候リスクを軽減できる;効果のある適応への展望が広がる;緩和コストを削減し、長期の課題を軽減できる;持続可能な開発を目的とする気候に耐性のある経路到達に貢献できる。
3.1:気候変動に関する政策決定の根拠:気候変動 及びその影響の制限に関し、政策決定者に情報を提供する分析手法という冒頭の文章に関し、ボリビアは、「平等、正義、衡平性問題(issues of equity, justice and fairness)」との表現の挿入を要請、サウジアラビアは、このほかに文化的価値にも言及する必要があると指摘した。執筆者は、「ガバナンス、倫理面、平等、価値判断、経済評価、及びリスクと不確実性に対する多様な受け止め方や反応(governance, ethical dimensions, equity, value judgments, economic assessments and diverse perceptions and responses to risk and uncertainty)」の重要性を認識するとする文章を提案、参加者もこれに同意した。
適応や緩和と持続可能な開発及び貧困撲滅との関係に関するパラグラフでは、長時間、議論が続き、参加者は、文章の議論の中で、緩和と適応の場合、平等、正義、衡平性の問題が出てくるが、両方とも持続可能な開発及び貧困撲滅の達成に必要とされるものだと述べた。執筆者は、ブラジルの提案に沿う形で文章を練り上げ、参加者は、次のような表現を採用するという代案に同意した:貧困撲滅を含め、持続可能な開発及び平等は、気候政策を評価する基礎となる;持続可能な開発及び平等を達成するには気候変動の影響を制限する必要がある;緩和と適応は、平等、正義、衡平性の問題を招く。
大気中のGHGs蓄積対する各国の過去及び将来の貢献はそれぞれ異なり、各国は、多様な課題や状況に直面し、緩和と適応への対応能力もそれぞれ異なるとする文章に関し、サウジアラビアは、平等及び共通するが差異のある責任の概念という表現を追加するよう求めた。ブラジル及びノルウェーは、「慎重に作成された文章(carefully crafted text)」の変更に警告し、この文章は提示された通り、承認された。
その後参加者は、「気候変動に最も脆弱なものの大多数はGHG排出に貢献しておらず、貢献するところも少ない(many of those most vulnerable to climate change have contributed and contribute little to GHG emissions)」との文章を承認した。
緩和を遅らせた場合のリスクに関する文章について、サウジアラビアは、これが持続可能な開発推進の行動をいかに阻害する可能性があるかを示す表現の追加を提案し、ベネズエラはこれを支持したが、フィンランドは反対した。少人数グループでのこの問題の議論の後、執筆者は、次の合意文章について報告した:「緩和の遅れは、現在から将来に負担を移動させるものであり、起こりつつある影響への不十分な適応対応は、既に、持続可能な開発の根本を浸食している(delaying mitigation shifts burdens from the present to the future, and insufficient adaptation responses to emerging impacts are already eroding the basis for sustainable development)」;「持続可能な開発と合致する気候変動対応総合戦略は、適応及び緩和の両方のオプションにより生じる共同便益、副次的悪影響、リスクを考慮に入れる(comprehensive strategies in response to climate change that are consistent with sustainable development take into account the co-benefits, adverse side effects and risks that arise from both adaptation and mitigation options)」。この文章は、リスクが生じる可能性がある(may)という修飾語を追加するとの英国の提案を採用し、承認された。
緩和、適応及び残余の気候影響の間における単一の最善のバランスは存在しないとする文章に関し、英国は、この削除を求め、フィンランドもこれを支持した。ボリビアは、この文章は持続可能な開発の概念で検討されるべきと指摘することを希望し、サウジアラビアもこれを支持した。フィンランドは、南アフリカ、EU、イタリアの支持を受け、次の承認済み文章の利用を提案した:単一の最善のバランスを「これらの手法では特定できない(these methods cannot identify)」。承認された文章は、これらの手法は「緩和、適応、残余の気候影響の間の単一の最善のバランスを特定できない(cannot identify a single best balance between mitigation, adaptation and residual climate impacts)」と明記する。
その後参加者は、次のパラグラフについて議論した:気候変動は、地球規模での集団行動問題という特性を有する;個別の行動者がそれぞれの利益のみを優先するなら、効果のある緩和は達成できない;効果のある緩和は「集団的な対応でのみ達成される(will only be achieved through collective responses)」。
中国は、ベネズエラ、ボリビア、ブラジル、サウジアラビアと共に、国際協力への言及を求め、ブラジル、中国、サウジアラビアは、そのような協力は衡平感を持って受け止められるものであるべきだと付言した。ベネズエラは、知識交換及び技術移転への言及も提案した。
パキスタンは、国際協力は「国連の枠組の下(under the UN framework)」である必要があるとの文章を提案した。インドは、エルサルバドル、サウジアラビア、パキスタン、中国と共に、適応への言及挿入を求めた。ブラジルは、EUと共に、適応には集団行動問題という特性はないと述べた。
非公式協議の後、執筆者は、「集団的(collective)」という言葉を「協力的(cooperative)」対応に変更し、次の新しい文章の挿入を提案、参加者もこれに同意した:「証拠によると、公平と見られる成果は効果のある協力を導く可能性がある(evidence suggests that outcomes seen as equitable can lead to more effective cooperation)」。
最終的なSYR SPMの文章:冒頭の文章は次のとおり:気候変動を制限する政策決定においては、異なる分析手法から情報を得ることが可能であり、ガバナンスや倫理面、平等、価値判断、経済評価、さらにはリスクや不確実性の多様な受け止め方やこれらリスク及び不確実性への反応の重要性を認識する。
このサブセクションには特に次の項目に関するパラグラフが含まれる:持続可能な開発及び平等は気候政策評価の基礎を成す;気候政策の設計は、個人及び組織によるリスク及び不確実性の受け止め方、これらをどう考慮に入れるかに影響される。さらにこのセクションでは、次の点も強調する:気候変動の問題には地球規模の集団行動問題という特性がある、これは大半のGHGsが一定期間をかけて蓄積され、地球規模で混合され、全ての排出源(例、個人、地域共同体、企業、国家)からの排出が他の排出源に影響を及ぼすためである。
3.2:緩和及び適応により軽減される気候変動のリスク:冒頭の文章「緩和には共同便益とリスクが関わる、しかしその影響の深刻さ、広範さ、不可逆性において、気候変動のリスクと同等の可能性があるわけではない(mitigation involves co-benefits and risks, but not the same possibility of severe, widespread and irreversible impacts as risks from climate change)」に関し、サウジアラビアは、「共同便益及び悪影響(co-benefits and adverse effects)」を提案した。スイスは、もう少しニュアンスを考えた表現を加える必要があり、そうすることで「全ての(all)」緩和行動はマイナスの影響を与えるとの印象を避ける必要があると強調し、「優れた設計がなされていない(not well-designed)」緩和行動のみにリスクがあるとの表現を提案した。さらなる提案及び改定案が出され、パネルは次の表現「副次的な悪影響による共同便益及びリスク(co-benefits and risks due to adverse side effects)」を承認、これらのリスクには、影響の深刻さ、広範さ、不可逆性で同等の可能性があるわけではないとの表現を、冒頭の文章に挿入した。
「異なる時間規模における気候変動の影響のリスクを軽減する補足的手法としての緩和及び適応(mitigation and adaptation as complementary approaches for reducing risks of climate change impacts over different time scales)」との文章に関し、ボリビアは、適応及び緩和は持続可能な開発の内容で行われるとのWGIIの表現を反映させるよう求めた。スウェーデン及びオーストラリアは、現在の文章の保持を希望し、この文章は提示された通り承認された。
21世紀後半の数十年間及びそれ以後では、緩和への投資は気候変動を削減する可能性があるとの文章に関し、ボリビアは、「投資」への言及削除を求め、これは通常、資金の移転を指すと指摘した。この文章は、この言葉を削除した上で承認された。
今後数十年間における適応便益の実現という文章に関し、サウジアラビアは、より長い期間への言及を挿入するよう提案し、参加者は、「今後数十年間(over the next few decades)」ではなく「将来(in the future)」とすることで合意した。
気候変動のリスクの一部は産業革命前のレベルより1℃もしくは2℃の上昇で相当大きなものになるとの文章に関し、セントルシアは、極端な現象に伴うものなど、リスクの例を挙げ、リスクの程度を「相当な(considerable)」ではなく「中から高(moderate to high)」とすることを提案した。サウジアラビアは、社会経済システムへのリスクにも留意することを提案した。この文章はセントルシアの提案を入れて、合意された。
懸念材料(Reasons for Concern (RFCs))に関するリスクの制限は、将来の累積CO2排出量の制限を意味するとの文章に関し、サウジアラビアとオーストラリアは、全てのGHGsへの言及を希望したが、ドイツ、フランス、米国、スペイン、セントルシア、その他は反対した。オーストリアは、スペイン、英国、イタリア、ブラジル、中国と共に、累積CO2排出量の前にある「将来(future)」という表現の削除を提案し、累積排出量は過去及び現在のものも示すと指摘した。パネルは、「将来(future)」を削除し、別な些少な編集上の修正を行った上で、提示された通りの文章で合意した。
サウジアラビアは、反復リスク管理枠組の中では、経済や気候系のイナーシア、さらには気候変動による不可逆的な影響の可能性は、近未来の緩和努力の便益を高めるとの文章の情報源に疑問を呈した。執筆者の一人は、この文章は異なるWGsの要素を集めてまとめたものであると説明した。議長のPachauriは、情報源の詳細を示す注を付け加えると述べた。サウジアラビアは、政策立案者が容易に理解できる単純な表現を求め、カナダは反復リスク管理枠組への言及の削除を提案、参加者はこれらに同意し、残りの文章は提示された通り承認された。
Pachauri議長は、図SPM.10を提出、これは3つのWGsの作業を合成するという大きな偉業により作成されたと指摘した、この図は気候変動の将来リスクは累積CO2排出量により異なり、さらに今後数十年間の年間排出量によっても異なることを示している。執筆者の一人は、この図を指し、これはRFCs (パネルA)にあるリスクとCO2累積排出量(パネルB)、これに対応する2050年までの年間排出量の制約要素(パネルC)とのクロスチェックを可能にするものだと説明した。この図及びその表題は、パネルCのCO2換算をGHG排出量との表現に変え、一貫性や正確さのための修正を行った上で、提示された通り、承認された。
最終的なSYR SPMの文章:このサブセクションの冒頭の文章は、現在存在する以上の追加的な緩和努力がなされない場合、たとえ適応を行っても、21世紀末までの温暖化により、深刻、広範、不可逆的な地球規模の影響が起きるリスクは高いもしくは極めて高くなると警告する。さらにこのサブセクションでは、特に、緩和の副次的な悪影響によるリスクは、その影響の深刻さ、広範さ、不可逆性において、気候変動によるリスクと同等の可能性を持つわけではないと記述する。
このサブセクションには特に次の項目に関するパラグラフが含まれる:異なる時間規模において気候変動の影響リスクを軽減する手法として緩和と適応が補足的であるのはなぜか;今後数十年間にGHG排出量を相当量削減するなら、21世紀後半及びそれ以後の温暖化を制限し、気候変動のリスクを大幅に削減できるのはなぜか;そして5つの「懸念材料(Reasons For Concern)」、すなわち脅威を受けている固有システム、極端な天候現象、影響の分布、世界の集約的な影響、大規模で極めてまれな現象に関するパラグラフ。
このサブセクションには、気候変動のリスク、気温の変化、CO2の累積排出量、そして2050年までの年間GHG排出量の変化との相互関係を示す図SPM.10も含まれる。
3.3:適応経路の特性:「より長期の展望をとるなら、直近の適応行動の増加は、将来のオプション及び準備体制を強化する可能性が高まる(taking a longer-term perspective increases the likelihood that more immediate adaptation actions will also enhance future options and preparedness)」との冒頭の文章に関し、スイスは次の文章の挿入を提案し、「持続可能な開発の考えの下(in the context of sustainable development)」、これで合意された。
人間の福利、資産の安全保障、生態系サービスの維持における適応の貢献に関する文章に対するボリビアの要請を受け、参加者は、生態系の「目標と機能(goals and functions)」への言及を挿入することで合意した。
適応オプションの効果的な選択及び実施のための適応能力向上の重要性に関する文章について、ドイツは、全ての開発計画に適応を統合する必要があるとの表現の挿入を求め、中国とサウジアラビアもこれを支持した。計画策定及び政策決定への適応の統合は、開発と災害リスクのシナジーを高められるとするWGII SPMの承認済みの文章を追加するとの執筆者の提案に関し、サウジアラビアは、「政策決定(decision making)」ではなく「政策設計(policy design)」への言及を要求、この文章は主に政府に対するものであり、自国では適応への民間部門の参画は微々たるものだと指摘し、エルサルバドルはこれを支持したが、カナダは反対した。参加者は、適応を「政策設計及び政策決定などの計画策定に入れ(into planning, including policy design, and decision making)」統合するとの表現で合意した。
ボリビアは、SYRは「全くバランスがとれていない(completely unbalanced)」と述べ、適応に関するパラグラフは3つだが、緩和のそれは4頁にわたると述べ、サウジアラビアとパキスタンもこれを支持した。同代表は、このセクションにパラグラフを追加挿入する必要があると強調し、WGsの報告書には、共同便益や先住民の伝統知識に関するものなど、適応関連の問題が豊富にある事実を反映させるべきだと述べた。この問題については、少人数の非公式草案作成グループで更に審議された。
適応の戦略的な対象を拡大すべきとの要請に対し、執筆者は、WGII SPMの SPM3.3-1B、SPM3.3-1C、SPM3.3-1D、SPM3.3-2Bという4つのパラグラフの追加を提案、多少の疑問点が明らかにされた後、参加者はこの文章を承認した。
適応の限界に関するパラグラフについて、米国は、この問題に関するWGIIでの長時間の議論を想起し、承認された表現を用いるよう提案した。参加者は、このパラグラフをWGII SPMの承認済みの表現に置き換えることで合意した。
変換及びそれが適応をいかに強化できるか、そして持続可能な開発を推進できるかに関するパラグラフについて、ボリビアは、変換というのは何もない真空状態では起きないと指摘し、WGIIのSPMでは各国自体のビジョン及び手法に言及しており、この表現の挿入を求めた。同代表はさらに、「強化された、変更された、または調整されたパラダイム(strengthened or altered or aligned paradigms)」を反映する変換型の適応という表現の挿入を提案した。参加者は、この両方の提案に同意した。
最終的なSYR SPMの文章:このサブセクションの冒頭文は次のとおり:適応は気候変動の影響のリスクを軽減できる可能性がある、しかしその効果は限定的である;より長期の展望をするなら、直近の適応行動の増加は将来のオプション及び準備体制を強化する可能性を一層高める。
このサブセクションは特に次のパラグラフで構成される:人間の福利、資産の安全保障、生態系の物品、機能、サービスの維持に対する適応の貢献;適応の計画作成と実施を強化する方法、及びそれを妨げる共通の抑制要素;適応の限界、及び気候変動の速度の早まり及び規模の拡大で、適応の限界を超える可能性が大きくなる理由;緩和と適応の間のシナジーとトレードオフ、及び異なる適応対応同士のシナジーとトレードオフ。さらにこのサブセクションは、経済面、社会面、技術面、政治面の政策決定及び行動の変換は、適応を強化でき、持続可能な開発を推進できると指摘する。
3.4:緩和経路の特性:冒頭の文章「これらの経路は今後数十年間にわたる相当な排出削減を必要としており、長期的にはCO2及び他の長寿命GHGsの排出をゼロに近くする必要がある(these pathways require substantial emission reductions over the next few decades and near zero emissions of CO2 and other long-lived GHGs over the long term)」に関し、 米国は、「長期的には(over the long term)」の明確化を求め、何か数的なものにするよう求めた。WG III共同議長のOttmar Edenhoferは、「今世紀末まで(by the end of the century)」を提案し、これで合意された。この修正そして他の編集上の修正を受け、この文章は承認された。
温暖化をこれより低いもしくは高いレベルで制限する場合も同様な努力が求められるが、その時間規模は異なる(limiting warming to lower or higher levels involves similar efforts, but on different timescales)とする冒頭の文章に関し、EUは、英国と共に、「努力(efforts)」ではなく、「排出削減(emission reductions)」とすることを提案した。執筆者の一人は、正しい用語は「チャレンジ(challenges)」であると応えた。この改定を行った上で、この文章は承認された。
「2100年のCO2換算大気濃度を約450 ppmまたはそれ以下とすることになる排出軌跡は、今世紀いっぱい、温暖化を産業革命前の水準比2℃以下で維持する可能性が高い(表SPM.1、図SPM.11)(emissions trajectories leading to CO2eq concentrations in 2100 of about 450 parts per million (ppm) or lower are likely to maintain warming below 2°C over the century relative to preindustrial levels (Table SPM.1, Figure)」との文章に関し、中国は、ボリビア及びサウジアラビアと共に、それぞれの確信度は異なるが、異なるCO2換算濃度に達するシナリオによる2℃目標達成の情報もこの文章に入れるよう求めた。ノルウェー、ドイツ、デンマーク、ニュージーランド、チリ、スロベニア、EU、スウェーデンは、提示された通りの文章を支持した。
WGIII共同議長のEdenhoferは、ここに言及される表SPM.1は他の濃度レベルにも言及しており、WGIII SPMでは詳細な情報も記載されている、このためこれを再現する必要はなかったと説明した。表及び図への言及をもっと目立つものにすべきとのニュージーランドの提案を受け、Edenhofer共同議長は、括弧内の参照項を次のように詳述するものにすることを提案した、「温暖化の代替レベルに導く経路については、表SPM.1と図SPM.11を参照(for pathways leading to alternative levels of warming, see Table SPM.1 and Figure SPM.11)」。執筆者の一人は、参加者の指摘する懸念に応えるため、他の濃度に関する情報を脚注に入れるよう提案した。
ボリビアは、ニカラグアと共に、1.5℃目標ではなく、2℃目標とすることに反対すると再度述べた。Pachauri議長は、パネルは2℃温暖化で何が起きるかを検討する義務があると応じた。
この文章及びパラグラフの残りの文章は共に、少人数グループで検討された。その後、執筆者の一人は、長くはあるがバランスのとれた文章で合意されたと報告し、異なるCO2換算濃度において2℃目標を達成するシナリオの詳細を、その可能性レベルも合わせ提供することとなったと述べた。ブラジルは、SPMの未承認箇所で概念的に似通った箇所にも同じ文章を用いるよう提案したが、Pachauri議長は、重複になると警告した。参加者は、その後、多少の編集面の修正を経て、このパラグラフ全体及び対応する2つの脚注を承認した。
パネルは、特に次のパラグラフについて合意した:二酸化炭素除去(CDR)技術は、程度は異なるが課題やリスクを伴う(carbon dioxide removal (CDR) technology being associated with challenges and risks to varying degrees)。CDR手法には地球規模での副次効果や長期的な影響結果があるとの脚注挿入の提案に関し、米国、オーストラリア、カナダ、ノルウェー、スロベニアなど多数の代表は、これが全てのCDR手法に当てはまるわけではないとする修飾語の挿入を要請した。ボリビアは、これらの技術に伴う欠点を指摘、これらは持続可能な開発に貢献しないと指摘した。この脚注は、修飾文を追加した上で、合意された。
執筆者が提案した緩和面における非CO2強制要素(non-CO2 forcers in the context of mitigation)に関する新しい文章について、米国は、オーストラリア及びチリと共に、執筆者が提案する「長期的な温暖化を推進しているのは主にCO2の排出量である(long-term warming is driven mainly by CO2 emissions)」及び「SO2の排出量削減は、温暖化を引き起こす(reducing emissions of SO2 would cause warming)」ではなく、次の表現とすることを支持した、「特定の短寿命気候強制要素の緩和は、短期的には温暖化の速度を遅らせるが、長期的な温暖化に対する効果は限定的である (mitigation of certain short-lived climate forcers can reduce the rate of warming in the short term, but will have a limited effect on long-term warming)」。執筆者による更なる文章推敲の後、参加者は、全てのGHG排出量は、今後20年間の気候変動の速度及び規模に影響を与えるが、長期的な温暖化は主にCO2の排出量で推進されるとすることで合意した。
CH4の排出量の効果は十分理解されているが、黒色炭素の効果(effects of black carbon)には大きな不確実性が残るとする文章に関し、ノルウェー、チリ、カナダ、オーストリア、オーストラリアは、これは不正確であるとして、この文章の削除を要請した。カナダは、次の新しい文章を提案した:特定の短命な気候影響ガス及びエアロゾル(例、メタン、黒色炭素)の排出量を削減するなら、短期的な気温上昇率を下げる可能性があり、寒冷化強制要素(例、SO2)を緩和するなら気温を上昇させる結果になる。中国は、この提案は黒色炭素の影響に関する不確実性を十分伝えているとはいえず、黒色炭素はそれ自体で緩和可能であると暗示する可能性があり、誤解を招くと強調した。ある執筆者は、この問題を一つの文章にまとめることの複雑さを指摘し、この削除を提案、参加者もこれに同意した。
参加者は、CO2換算排出量を計算する場合の計算式の選択は、その用途や政策の内容により異なり、価値判断が関わるとの文章を保持するかどうかについても議論した。この削除の提案に対し、執筆者チームは、この文章は基本的な政策関連性のある結論であると強調し、SYRではこれ以外に非CO2緩和オプションとCO2緩和オプションとを比較した箇所はないと指摘した。非公式協議の後、参加者は、この文章を提示された通り保持することで合意した。
緩和の集約的経済コストに関するパラグラフについて、世界の単一の炭素「価格(price)」ではなく「市場(market)」とするとのサウジアラビアの提案は受け入れられず、この文章は提示されたとおりで承認された。
執筆者は、WGIIIの図に基づく世界の緩和コストに関する図SPM.13を提示した。米国は予想される消費の伸び率と比較し、緩和コストは大きくないと指摘し、パネルは、図の横にベースラインの消費伸び率を示す棒を加えることに同意した。この図は、表題を「世界の緩和コスト及びベースラインシナリオでの消費伸び率」と変更した上で、承認された。
利用可能な技術が限定される中での緩和コストに関するパラグラフについて、日本は、主要な技術に遅れが生じても、21世紀中に2℃以下の温暖化を保持できる可能性が高いシナリオを作成する上でのモデル研究の限界に関する文章の中で強調されていた、主要技術のリストに、WGIII SPMにある原子力及び再生可能エネルギーを加えるよう提案した。日本、ドイツ、執筆者の間でさらなる協議が行われた後、パネルは、最初の文章に、表SPM.2の全ての技術をリストアップする括弧書きをつけることを承認し、この文章は合意された。承認された文章は次のとおり:「緩和技術(たとえばバイオエネルギー、CCS[CO2回収貯留]、CCSとその組み合わせ、BECCS [CCSを付けたバイオエネルギーCCS]、原子力、風力/太陽光)が存在しない、もしくは利用可能性が限定的である場合、緩和コストは大幅に増加する可能性がある、ただしこれは検討された技術により異なる(in the absence or under limited availability of mitigation technologies such as bioenergy, CCS [carbon capture and storage] and their combination, BECCS [bioenergy with CCS], nuclear, wind/solar), mitigation costs can increase substantially depending on the technologies reviewed)」。
サウジアラビアは、ロシア、エジプト、ヨルダン、ベネズエラ、インド、オーストラリア、モルディブ、韓国、パキスタンの支持を得て、WGIII SPMに記載する通り、次を強調する文章を提案した:「緩和シナリオは、化石燃料輸出国の歳入を削減する可能性があり、CCSの利用可能性は、その歳入価値に対する緩和の悪影響を軽減する(mitigation scenarios may reduce revenues for fossil fuel exporters and that the availability of CCS would reduce the adverse effects of mitigation on the value)」 。デンマーク、スイス、その他はこれに反対した。スウェーデンは、再生可能エネルギー生産者への影響にも言及すべきと述べた。参加者は、サウジアラビアの提案を文章ごとに検討した。
更なる議論の後、参加者は、AR4以後、適応と緩和の両方に関し、国家レベル、国内小地域レベルの計画及び戦略が増加し、多様な目的を統合し、共同便益を高め、副次的な悪影響を削減するよう設計された政策に一層注目が集まっているとの文章で合意した。執筆者の一人は、この文章をサブセクション4.4(適応、緩和、技術、資金のための政策手法)に含めることに同意した。
緩和政策は、化石燃料資産の価値を下げる可能性があり、歳入を減少させる可能性があるとの文章は承認されたが、英国、スウェーデン、スロベニアは、これに続く文章、すなわち石炭及び石油の貿易収入の減少に伴う緩和シナリオに関する文章の削除を求め、これは繰り返しであると指摘した。英国、EU、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーは、この報告書は環境目標と他の共同便益及びリスクの特性、特に悪影響の特性との間でバランスが取れていないとして懸念を表明した。
土曜日の午前中、少人数グループでの協議の後、執筆者の一人は、このサブセクション(3.4)のパラグラフの中に、化石燃料資産の価値の低下に関しサウジアラビアが提案している承認済みの文章を保持することを、このグループは提案していると報告した。同氏は、この文章と、本来は緩和政策の効果に関するパラグラフ用に提案された緩和の共同便益に関する文章案とのバランスをとることも、このグループのもう一つの提案であると述べた。この文章は合意された。
新しいパラグラフとして提案されたのは:450または500 ppmに達する前のCO2換算濃度を有する緩和シナリオにおける、人間の健康面の共同便益、生態系への影響、資源の充足、エネルギーシステムの回復力に関する表現方法を示す文章である。この表現方法をサブセクション4.4 (適応と緩和、技術、資金に関する政策アプローチ)に入れることで合意された。
執筆者は、エネルギー最終用途措置の共同便益ポテンシャルは副次的悪影響のポテンシャルを上回るが、必ずしも全てのエネルギー供給及びAFOLU措置にあてはまるわけではないとする文章を、サブセクション4.4の中のパラグラフに置き換えることで、同グループは合意したと述べた。
パネルはこれらの提案を承認した。
太陽放射光管理(SRM)に関するパラグラフについて、米国は、用語集にあるSRMの定義は広義であるとして、SRMには不確実性及び副次的影響、リスク、欠点が「あるだろう(would)」ではなく「ありうる(could)」とすることを提案した。執筆者は、この文章は特に大規模SRMに関する文章であるとして、「あるだろう(would)」を希望した。この文章は、執筆者の提示した通りで合意された。
参加者は、SRMが展開され、その後中止された場合、地表温度は極めて急激に上昇し、急速な変化に脆弱な生態系は影響を受けるとする文章についても議論した。ブラジル、カナダ、ロシアは、この文章に修飾語をつけるよう提案した。執筆者は提示された通りの文章を希望し、その文章で合意された。
最終的なSYR SPMの文章:このサブセクションの冒頭の文章は次のとおり:温暖化を産業革命前の水準と比べ2℃以下の上昇で制限する可能性が高い緩和経路は複数以上存在する;これらの経路は、今後数十年間の間に相当量の排出削減を求めており、今世紀末までのCO2及び他の長寿命GHGsの排出量をゼロ近くにすることを求めている;そのような削減の実施は、技術的、経済的、社会的、制度的に相当大きな課題を課すことになる;温暖化をこれより低い水準、もしくは高い水準で制限する場合も、似たような課題があるが、その時間規模は異なる。
このサブセクションには特に次のことを指摘するパラグラフが含まれる:追加の努力がなされない場合、世界の排出量は世界の人口増及び経済活動の活発化に主導され、増加を続けると見られる;2100年に約450 ppm CO2換算またはそれ以下のGHG濃度となるようなシナリオは、21世紀を通し、産業革命前の水準と比べ2℃以下の温暖化を保持する可能性が高い;温暖化を産業革命前の水準と比べ2℃以下で保持する可能性が高い確率と合致する緩和シナリオでは、一時的に目標を上回る大気濃度になるのが通常である。
さらにこのサブセクションでは次のように記述する:非CO2物質の排出削減は、緩和戦略の重要な要素となりうる;2030年までの追加緩和を遅らせるなら、21世紀中の温暖化を産業革命前水準比2℃以下で制限することに伴う課題が相当大きくなる;緩和の集約的経済コストの推計値は極めて広い範囲内で多様な値をとるが、緩和が厳格であればあるだけ高い値となる;緩和技術がない場合、またはその利用可能性が限定的である場合、緩和コストは大きく増加する可能性がある;緩和政策は化石燃料の資産価値を減少させる可能性があり、化石燃料輸出国の歳入は削減される;CCSの利用可能性は、化石燃料の資産価値に対する緩和の悪影響を軽減するであろう;SRMには、気候系に吸収される太陽エネルギーの量の削減を目指す大規模手法も含まれるが、これは実験されておらず、どの緩和シナリオにも含まれていない。
このサブセクションには、次の図が含まれる:全てのAR5シナリオにおける2000-2100年のGHG排出経路及びこれに伴う低炭素エネルギーの供給規模拡大に関するSPM.11;21世紀を通し、温暖化を産業革命前の水準比で2℃以下に抑える可能性がないというよりはある方の緩和シナリオにおけるCO2排出削減率及び低炭素エネルギーの規模拡大に対し、多様な2030年のGHG排出水準が及ぼす影響に関するSPM.12;ベースラインシナリオにおける世界の緩和コスト及び消費増大に関するSPM.13。
このサブセクションには次に関する表も含まれる:WGIII AR5で集められ、評価されたシナリオの主要な特性;特定の技術の利用可能性が限定されていることを原因とする、もしくは費用効果性シナリオと比較した追加緩和の導入が遅れたことを原因とする、世界的な緩和コストの増加。
4.適応及び緩和:このセクションのタイトルに関し、サウジアラビアは、適応と緩和の「措置(measures)」ではなく、「オプション(options)」とすることを要求したが、英国は「適応及び緩和」という一般的なタイトルを希望し、これが承認された。
効果的な実施はそれを支援する政策次第であり、適応及び緩和を他の社会目的と結びつける統合的な対応をとることでこれを強化できるという冒頭の文章に関し、ブラジルは、エルサルバドルとともに、気候変動対応における国際協力の重要性への言及を挿入する必要があると強調した。文章に関し再度の編集作業を数件行い、さらにWGIII共同議長のRamón Pichs Madrugaの提案を受けた上で、参加者は、効果的な実施は、「それを支援する政策及び全ての規模での協力(supporting policies and cooperation at all scales)」次第であるとする文章案を承認した。
最終的なSYR SPMの文章:このセクションの冒頭分は次の通り:多くの適応及び緩和オプションは気候変動への対応を助けることができるが、それ自体で十分というオプションは存在しない;効果のある実施は政策及び全ての規模での協力次第であり、適応と緩和を他の社会目的と結びつける総合的な対応により強化することができる。
4.1:適応及び緩和対応を可能にする共通要素及び制約要素:グリーンなインフラ及び環境に優しい技術における技術発明及び投資は、GHG排出量を削減し、気候変動に対する社会の回復力を強化できるとする文章に関し、参加者は、特に、ブラジルの要請どおり、「グリーンな(green)」インフラへの言及を削除し、代わりに「環境に優しいインフラ及び技術」とすることで合意した。
気候政策の社会の受容及び/又はその効果は、生活様式又は行動の変化を促す、もしくはそれに依存する程度により影響を受けるとする文章に関し、サウジアラビアは、生活様式における「地域的に適切な(regionally appropriate)」変化という表現を付すよう要請し、参加者もこれに同意した。
ブラジル、サウジアラビア、中国によるコメント発表を受け、参加者は、制度の改善さらにはガバナンスでの協調及び協力は緩和、適応、災害リスクの軽減に伴う地域的な制約条件の克服に役立つ可能性があるとの新しい表現方法で合意した。
最終的なSYR SPM文章:このサブセクションの冒頭の文章は次の通り:適応と緩和への対応は、次のものなど、対応を可能にする共通要素で補強される:効果のある制度とガバナンス、発明;環境に優しい技術及びインフラへの投資;持続可能な生活;行動及び生活様式の選択。
このサブセクションには、特に、次の問題に注目するパラグラフが含まれる:社会経済システムの多くの側面のイナーシアは、適応オプション、緩和オプションを強制する;気候変動に対する脆弱性;GHG排出量及び適応能力、緩和能力は、暮らしや生活様式、行動、そして文化の影響を受ける;多くの地域及び部門では、緩和する及び適応する能力の強化が気候変動のリスク管理に不可欠な基礎の一端を為す。
4.2 適応に対応するオプション:公共部門と民間部門において、そして地域社会内において、地域を横断して蓄積される適応の経験を記述する文章に関し、ボリビアは、チリの支持を受け、「先住民及び地方の知識システムと実践方法(プラクティス)」への言及追加が重要だと強調したが、EUは反対した。執筆者は、ボリビアの要求は適応経験に関するWGIIの評価の結論に沿うものではないと説明した。その後、この文章は、提示されたとおりで承認されたが、執筆者は、(地方の及び先住民のものを含める)社会的な措置、制度、及び生態系ベースの措置の価値、並びに適応の制約条件の範囲に関する認識の高まりについて、WGII SPMに書かれた文章の挿入を提案し、参加者も同意した。
適応オプションは全ての部門、全ての地域に存在するとの文章に関し、参加者は、オプションは多様な「ポテンシャル」及び手法を持つ形で存在することを特定するドイツの提案で合意した。パラグラフの残りの部分は、変更されることなく承認された。
最終的なSYR SPMの文章:このサブセクションの冒頭部分は次のとおり:適応オプションは、全ての部門に存在する、しかしその実施面及び気候関連のリスク軽減のポテンシャルは、部門及び地域を横断して異なる;適応対応の一部は、相当大きな共同便益、シナジー、トレードオフを含む;気候変動の増大は、多数の適応オプションにおいて、その課題を増大させる。
このサブセクションには、次を指摘するパラグラフが含まれる:適応経験は、地域を問わず、官と民の各部門において、さらには地域共同体内において、蓄積されている;適応の新たなニーズ、それに伴う課題は、気候変動と共に増加するとみられる。さらにこのサブセクションには、適応により気候変動のリスクを管理する手法に関する表SPM.3も含まれる。
4.3:緩和のための対応オプション:執筆者は次の新しい文章を挿入した:「2100年までにCO2換算濃度で450 ppmを達成するシナリオの場合、世界のエネルギー供給部門のCO2排出量は、今後10年間に低下し、2040年から2070年の間に2010年比で90%もしくはそれ以上削減されるという特性を持つことが予想される。」サウジアラビアは、450 ppmを強調する文章表現に反対した。執筆者の一人は、この文章は図SPM.14に基づく情報を提供するものであり、450 ppmシナリオに選択性を持つわけではないと説明した。参加者は、この文章を保持するかどうか議論し、デンマーク、チリ、フランス、コスタリカは、支持の声を挙げ、サウジアラビアはエネルギー供給部門のみを対象とすることに反対した。
その後、参加者は、主要部門におけるCO2の直接排出量及びベースラインシナリオ及び緩和シナリオの非CO2排出量に関する図SPM.14について議論した。日本の要請を受け、表題は修正され、シナリオには緩和オプションの全ポートフォリオが含まれていると明記し、さらにサウジアラビアの提案どおり、シナリオにはCCSも含まれるとの言及を保持することとした。ドイツ及びサウジアラビアの提案する他の小さい修正を加え、この図は合意された。
最終的なSYR SPM文書:このサブセクションの冒頭文は次のとおり:緩和オプションは全ての主要部門で利用可能である;緩和は、エネルギーの利用量削減及び最終用途部門のGHG原単位削減、エネルギー供給の非炭素化、正味の排出量削減、土地ベース部門の炭素吸収源の強化を図る措置を組み合わせる統合手法を用いるなら、費用効果性が高まる可能性がある。
このサブセクションには、次のパラグラフが含まれる:設計が優れており、体系的で部門横断的な緩和戦略は、個別の技術及び部門に注目する戦略と比べ、排出削減の費用効果性が高い;GHG濃度を低レベル(約450 ppm CO2換算、これは産業革命前の水準より2℃の温暖化で抑える可能性が高い)で抑える緩和シナリオ達成のための主要な措置。このサブセクションは次の点を指摘する、2100年までに450 ppm CO2換算に達するシナリオの場合、世界のエネルギー供給部門を起源とするCO2排出量は、今後10年間の間に減少することが予想され、2040年から2070年の間に2010年の水準比で90%もしくはそれ以上削減することを特徴とする。このサブセクションは、さらに次のように記述する:エネルギー需要部門の近未来の削減は、費用効果のある緩和戦略にとり重要な要素である;人間の行動、生活様式、文化は、エネルギーの利用及びそれに伴う排出量に相当大きな影響があり、一部の部門では高い緩和ポテンシャルがある。
サブセクションには、さらに主要部門のCO2直接排出量及びベースラインと緩和シナリオの非CO2排出量に関する図SPM.14も含まれる。
4.4:適応と緩和、技術、及び資金のための政策手法:このサブセクションは、最初、水曜日の午後及び夕方、David Warrilow (英国)及びAntonina Ivanova Boncheva (メキシコ)を共同議長とする非公式グループの会合で議論された。その後、Warrilow共同議長は、承認を得るため、このグループの作業結果をプレナリーに提出した。
技術開発及び展開を支援し、気候対応への資金を供与する政策は、適応及び緩和を直接推進する政策を補足する可能性があるとする冒頭の文章に関し、参加者は多様な文章提案を行った。モルディブはボリビアと共に、技術「移転(transfer)」への言及も含めるよう提案、これを受け、執筆者は、「技術開発、展開及び移転(technology development, diffusion and transfer)」との記述を提案、参加者もこれに同意した。オーストリアは、相当量の排出削減は投資パターンの大幅な変更を必要とするとの文章の追加を提案した。ボリビアはこれに応じて、オーストリアの提案で合意するなら、「強力な国際協力(stronger international cooperation)」の必要性に関する言及も必要だと述べた。ブラジル及び米国など、他の参加者は、執筆者提案の書式を希望、これが承認された。
国際協力は効果のある緩和にとり重要であるとするパラグラフで、非公式グループは、気候変動「の緩和(the mitigation of)」をUNFCCCの主要な焦点と特定する記述を削除することで合意した。その後、パネルは、UNFCCCは気候変動への対応に焦点を当てるとする、非公式グループ提出の文章を承認した。
非公式グループが提案した「適応計画策定を支援する国際協力は、これまでは、緩和に関するものより注目が少なかったが、注目が高まり始めている(international cooperation for supporting adaptation planning has received less attention historically than mitigation, but is increasing)」との記述に関し、ニカラグアは、国際協力は依然として不十分であるとの表現を要請したが、WGII共同議長のFieldは、この文章は既にSYRの本文報告書で承認されていると応じた。モルディブは、「適応計画策定(adaptation planning)」の後に「及び実施(and implementation)」を加えるよう提案した。この変更を行い、このパラグラフは承認された。
非公式グループは、適応ガバナンスの制度面に関する文章でも議論し、参加者の一人は、各レベルを横断する補足的な適応手法の事例、「たとえば大規模な官民のリスク軽減イニシアティブ及経済の多角化(such as large-scale, public-private risk reduction initiatives and economic diversification)」の挿入を求めた。執筆者の一人は、生態系サービスへの支払い、官民パートナーシップ、土地の地域割り(zoning)、経済の多角化などの事例を挙げる別な文章を提案、これが受理された。
「地方政府及び民間部門は機能が異なるが、適応を進める上で重要であるとの認識が高まっている(while local governments and the private sector have different functions, they are increasingly recognized as critical to progress in adaptation)」との文章に関し、エルサルバドルは、ニカラグアと共に、民間部門は適応では二次的な役割をするものであり、この文章は現実に即していないと指摘した。非公式グループ共同議長のWarrilowは、同グループでは「サブナショナル(subnational)」政府を「地方(local)」に置き換え、地方政府及び民間部門の「異なる機能(different functions)」への言及を加え、この懸念に応えることにしたと説明した。パキスタン、EU、及びPachauri議長は、提示された文章を支持した。WGII共同議長のFieldは、オーストリアの提案に応えて、機能は「地域により異なる(vary regionally)」との言及を提案、その文案で合意した。
多様な行動者が参加する適応の制度手法の例を列挙する文章に関し、ボリビアは、ニカラグアと共に、「生態系サービスへの支払い(payments for ecosystem services)」の削除を要請、これは生態系が提供する多数の可能な機能のほんの一例に過ぎないと指摘した。Field共同議長は、この語句に代わり「生態系ベースの管理(ecosystem-based management)」を含めることを提案、参加者もこれに同意した。スイスは、保険などの経済手法への言及を加えるよう要請、これも受理された。
カーボン価格に関するパラグラフについて、参加者は、キャップアンドトレードシステム及び炭素税など、「炭素価格を設定するメカニズムは、原則として(in principle, mechanisms that set a carbon price)」費用効果の高い形で緩和を達成できる、しかし各国の国情及び政策設計を理由の一端として、その実施効果は多様であると記述する表現に修正した。燃料税の効果に関する文章は、そのような税金は必ずしも緩和目的で設計されるとは言えないとの記述に変更された。このパラグラフ全体は、非公式グループの提示通りで、パネルによる承認を受けた。
非公式グループは、サブセクション3.4において議論されたサウジアラビアの提案に基づき、緩和の共同便益及び副次的悪影響に関するパラグラフを大幅に変更、次の通りとした:緩和の「悪影響及び(adverse effects and)」共同便益は、他の目的の達成に影響を与える可能性があると規定する;文書草案の目的リストを削除し、その代わりに次の新たな目的リストに置き換える、「人間の健康、食料安全保障、生物多様性、地方の環境の質、エネルギーへのアクセス、暮らし(such as those related to human health, food security, biodiversity, local environmental quality, energy access, and livelihoods)」;補助金に関する文章を除去し、別な箇所に置く;実際に起きる副次効果は、事例別、場所別なのか、事例別、場所別であるならその程度はどのくらいか、地方の状況や規模、範囲、実施速度で異なるのか、異なる場合はどの程度異なるのかを明確にする;共同便益及び副次的悪影響の多くは、十分に定量化されていないとの記述を加える。このパラグラフは、非公式グループの提示通りで、パネルによる承認を受けた。
パネルは、「技術政策は、他の緩和政策を補足する、また多数の適応努力も技術及び管理実施方法の展開に極めて大きく依存する(technology policy complements other mitigation policies, and many efforts also critically rely on diffusion of technology and management practices)」との文章について議論した。ボリビアは、WGIII SPMにある記述「国際協力は、知識及び環境に優しい技術の開発、展開、移転に建設的な役割を果たせる(international cooperation can play a constructive role in development, diffusion and transfer of knowledge and environmentally sound technology)」の追加を要請した。WGIII共同議長のEdenhoferは、国際協力はこのセクションに属するものではないと述べた。モルディブは、技術の展開だけでなく、技術開発及び移転にも言及することを提案した。このパラグラフに関する非公式協議の後、WGII共同議長のFieldは、次の改定案を提出、その後承認された:「技術政策(開発、展開、移転)(technology policy (development, diffusion and transfer))」は、「国際的な規模から国内小地域の規模に至る全ての規模を通して(across all scales from international to subnational)」他の緩和政策を補足する。パラグラフの残りの部分は、非公式グループの提出した通りで承認された。
参加者は、目標を超えることなく濃度を安定化する緩和シナリオの場合、何が必要かを記述する文章に関し、主要部門の輸送、産業、建築でのエネルギー効率化に必要な年間投資額を特定することで合意した。
さらに参加者は、資金源に関するパラグラフも修正することで合意し、初めに、適応及び緩和向けの資金源の利用可能性におけるギャップに焦点を当て、その後、世界的な適応のニーズ及び利用可能な資金の間にギャップがあると指摘することとした。
最終的なSYR SPM文書:このサブセクションの冒頭文は特に次のように記述する:効果的な適応及び緩和対応は、多数の規模を横断する政策及び措置に依存する。
このサブセクションには、効果のある緩和のための国際協力、及びガバナンスの規模を横断する協調を行うことで適応の強化を図ることに注目するパラグラフが含まれる。このパラグラフには、次の箇条書きも含まれる:
•UNFCCCは、気候変動への対応に焦点を当てる主要な多国間フォーラムである;
•京都議定書は、参加性、実施、柔軟性メカニズム及び環境面での効果性に関する学習事項を提供する;
•政策同士の連携は、気候変動の緩和における便益の可能性を提供する;
•適応支援を目的とする国際協力は、緩和に関するものほど注目されていないが、注目が高まりつつある。
AR4以後の国内及び国内小地域の計画や戦略の増加に関するパラグラフには、次の箇条書きが含まれる:
•各国政府は、適応の計画策定及び実施において重要な役割を果たす;
•計画策定及び政策決定に適応を統合することなど、制度面は、適応の計画策定から実施に移す段階において重要な役割を果たす;
•炭素価格を設定するメカニズムは、原則として費用効果の高い緩和を達成するが、その実施効果は多様である;
•規制手法及び情報面の措置は、広く用いられており、環境面でも効果のある場合が多い;
•部門別の緩和政策は、経済全体に対する政策よりも広く用いられており、障壁の一部には、より適切な対応をする可能性がある;
•再生可能エネルギー技術に対する補助金などの経済的手法は、最近の再生可能エネルギーの成長を推し進めており、GHG関連の活動に対する補助金の削減は、排出削減を達成可能にする。
他のパラグラフは、次の項目に焦点を当てる:緩和の共同便益及び副次的悪影響、及び他の目的に対する効果;規模を横断する形で他の緩和政策を補う技術政策;投資パターンを排出量の顕著な削減を目的とするものへと大幅に変更する必要性;世界の適応ニーズと利用可能な資金とのギャップ;緩和と比較し、適応向けの資金源の欠乏。
4.5:持続可能な開発とのトレードオフ、シナジー、相互作用:気候変動は持続可能な開発に対する脅威であるとの冒頭文に関し、デンマークは、ドイツと共に、緩和及び適応は人間の福利をいかに改善するかという広義の内容の文章を追加するよう求めた。ボリビアは、この文章の代わりに、気候変動の影響抑制は貧困撲滅を含める持続可能な開発及び衡平性を達成する上で必要との文章にすることを要請し、サウジアラビアもこれを支持した。冒頭部分は簡素なものにしておくとの提案の後、この文章は提示された通りで承認された。冒頭文の残りの表現は、多少の編集面の修正を加え、承認された。
執筆者は、気候変動の脅威に関するパラグラフに関し、ノルウェーが適応問題の少人数グループの議論で提案したとおり、WGII SPMの文章を追加することを提案し、参加者もこれに同意した、この文章は次のとおり:「緩和行動の遅れは気候回復経路のためのオプション、将来の適応のためのオプションを削減する可能性がある(delaying mitigation actions may reduce options for climate-resilient pathways and adaptation in the future)」;「適応と緩和のプラスのシナジーを活用する機会は、時が経つにつれ減少する可能性があり、特に適応の限界を超えた場合にはそうである(opportunities to take advantage of positive synergies between adaptation and mitigation may decrease with time, particularly if limits to adaptation are exceeded)」。
統合対応は次の項目に「特に関連性(especially relevant)」があるとする文章について、多少の議論が行われた:エネルギーの計画策定及び実施;水、食料、エネルギー生産、生物的炭素隔離の相互作用;都市計画。執筆者は、CCSにも言及するとのサウジアラビアの提案に対し、この文章は土地ベース活動に言及するものであり、水、食料、エネルギー生産が焦点であると説明した。ブラジルは、なぜ生物的炭素隔離だけ出てきたのか質問した。ボリビアは、「食料生産(food production)」など、合意された用語の使用を希望し、サウジアラビアは、水の生産にも言及するよう求めた。記述を簡素なものにしておくとの執筆者の提案の後、参加者は、「水、食料、エネルギー、生物的炭素隔離、都市計画(water, food, energy and biological carbon sequestration, and urban planning)」の相互作用に言及することで合意した。
最終的な SYR SPM文書:このサブセクションの冒頭文は次のように記述する:気候変動は持続可能な開発に対する脅威である;統合的対応により、緩和、適応、及び他の社会目的の追及とを結びつける多くの機会が存在する;実施が成功するかどうかは、関連のツール、適切なガバナンス構造、対応能力の強化に依存する。
このサブセクションには次のパラグラフが含まれる:気候変動は、社会システム及び自然系に対する他の脅威を悪化させ、特に貧困層に追加負担を強いる;気候政策を持続可能な開発に沿うものにするには適応と緩和の両方に注目する必要がある;世界の緩和行動の遅れは、気候回復経路及び将来の適応に向けたオプションを削減する可能性がある。さらに、このパラグラフは、持続可能な開発のための気候回復経路に向け動くと同時に、暮らしや社会的及び経済的福利、効果のある環境管理の改善に役立つ戦略及び行動は、今現在、探求することが可能であるとも記述する。
長文報告書の採択:議長のPachauriは、長文のSYR報告書を採択するプロセスはSPM承認プロセスとは異なると強調し、参加者に対し、長文報告書をセクションごとに査読するよう求めた。 IPCC事務局長のChristは、パネルに対し長文報告書査読の目的は、SPM及びその基となるWG報告書との一貫性を確保することであると想起した。
序文:SYR TSUの長であるLeo Meyerは、このセクションの変更箇所について説明し、このセクションは採択された。
題目 1:観測された変化及びその原因:この題目の査読編集者は、この文書全体について参加者に説明し、小出しプロセスへの満足の意を表し、次の点を指摘した:SPMの表現の改定を受けた多少の変更;トレーサビリティーを高め、透明性を強化する変更;編集エラーの修正。同査読編集者は、SPM「原因(causes)」に関するSPMのセクションは長文報告書の中の「起因(attribution)」と「推進要素(drivers)」というWGI及びWGIIの両方の資料を合成した二つのセクションの内容を反映させるため、長文報告書と多少異なる構成にする必要があり、簡単な表現を用いたと説明した。
題目 2:将来の気候変動、リスク、影響:執筆者の一人は、このセクションの変更点について説明し、このセクションは図表も含め採択された。
題目 3:適応、緩和、持続可能な開発のための将来経路:執筆者は、SPMとその基となる報告書との間の完全な一貫性を報告し、参加者は、図表を含める題目3を提示されたとおり採択した。
題目4:適応及び緩和:査読編集者は、図表を含めるこのセクションの変更点について説明した。表4.1及び図4.5では多少の議論が行われた。
表4.1では、サウジアラビアとチリの提案を受け、「弱体なガバナンスと制度アレンジ(weak governance and institutional arrangements)」の抑制要素という箇所を、「ガバナンス及び制度アレンジでの課題(challenges in governance and institutional arrangements)」に変更し、この表をSPMと合わせる形にした。
図4.5に関し、サウジアラビアは、企業のキャッシュフロー、一般税収、資本に対する国際課税への言及に疑問を投げかけ、このような用語を用いた場合の国際的な影響に懸念を表明した。議長のPachauriは、これに対し、この図は各国政府に配布された8月25日版に含まれており、何のコメントも受け取っていないと述べた。WGIII共同議長のEdenhoferは、この表は叙述的なもので、規範的な影響は一切ないと説明し、国際課税ではなくクリーン開発メカニズム(CDM)に言及することを提案した。英国は、「国際課税、例、CDM料金(international levies, e.g., CDM levies)」とすることを提案したが、Edenhofer共同議長は、CDMの下での料金が唯一の国際課税であると回答した。パネルは、「国際(international)」課税を「CDM」料金に置き換えることで合意した。
ブラジルは、プロジェクトボックスにおけるREDDへの言及削除を提案、REDD+はプロジェクトベースのものではないと指摘した。Edenhofer共同議長はこの提案に同意した。
これらの変更及び他の些少な改定を行った上で、参加者は、このセクション及び対応する図表を採択した。
オブザーバー組織の加入承認
IPCC事務局長のChristは、月曜日、この議題項目(IPCC-XL/Doc.7)を提出した。パネルは、Green Cross International、Association Carré Geo & Environnment (カメルーン)及びCARE International (デンマーク)のオブザーバーとしての加入を承認することで合意した。
IPCCの将来作業
TGF共同議長のHelen Plume (ニュージーランド)は、TGF共同議長のTaha Zatari (サウジアラビア)の代理の立場も合わせ、TGFの第2回進捗状況報告書(IPCC-XL/Doc.13)を提出した。さらに同共同議長は、2014年10月26日に開催された第3回f TGF会議での議論に基づくオプションペーパー(IPCC-XL/Doc.13 Add.1)も提出した、このペーパーでは、更なる意見の集約点を明らかにすると共に、次の項目に関するオプションも規定する:将来のIPCC制作品;IPCC制作品作成の組織構造;途上国の参加及び貢献の強化。同共同議長は、提案ペーパーは、2015年1月に提供されると指摘し、これは、IPCC-42で選出されるべき次の議長団の人数、構造、構成などについてパネルの合意が必要とされる2015年2月のIPCC-41での検討にかけるため、提出されると述べた。議長のPachauriは、英国の質問に応え、各国政府はこの提案ペーパーに対するコメントを事務局に送付できると述べた。
コミュニケーションとアウトリーチ活動
IPCCのコミュニケーション及びメディア関係(Communications and Media Relations)の長であるJonathan Lynnは、IPCC-39以後に行われてきたコミュニケーション及びアウトリーチプログラムの概要を説明し、今後のアウトリーチ計画(IPCC-XL/Doc.9)を提出した。同氏は、地域内小地域でのイベントなど、AR5のプレゼンテーションを行う、広範なアウトリーチプログラムの計画を指摘、その最初のイベントは、南アフリカで開催されると述べた。Lynn氏は、この報告書はIPCCのウェブサイトを通し、世界各地に、そして題目別にも、全ての国連用語で広められることになると述べた。モロッコは、事務局の取りまとめ作業、及び新しいコミュニケーションの活動を祝し、途上国でのAR5発表の必要性を強調した。
気候変動、食料、農業に関するテクニカルペーパーもしくは適切な行動をとる可能性についての要請
IPCC事務局長のChristは、この議題項目(IPCC-XL/Doc.14, Corr.1)を取り上げ、この題目に関するテクニカルペーパーについて、国連食糧農業機関(FAO)からも別な要請を受け取ったと報告した。同事務局長は、いくつかのオプションが検討され、関係する国連組織ともこの要請に関し協議してきたと述べた。同事務局長は、技術報告書、特別報告書、ワークショップ、あるいは専門家会議によるものなど、このような問題への対応手続きやオプションについて概要を説明した。
アルゼンチン、ボリビア、ベネズエラ、ブラジル、キューバ、エクアドル、韓国は、この問題に関する新たな作業を行うと直近で決議することへの躊躇を表明した。
オーストリアは、AR5の資料からこの問題に関するものを抽出し、テクニカルペー^パーを作成することへの関心を表明し、ノルウェーもこれを支持した。タンザニアは、マリ、日本、米国、オランダ、ブラジル、英国の支持を受け、途上国のための優先事項として、テクニカルペーパーまたは特別報告書の作成を求めた。
ニュージーランドは、アイルランド、日本、米国、スペイン、中国、スイス、スロベニアの支持を受け、最初のステップとしての専門家会議開催を提案、これで2015年のパリでのUNFCCC COPの前に何かを作成するという時間的なプレッシャーはなくなると述べた。アイルランドは、そのような専門家会議の主催を申し出た。ブラジルは、タンザニア、オーストリア、モロッコの支持を受け、成果に予断を加えることのない専門家スコーピング会議への関心を表明する一方、参加について明確にすることを求めた。議長のPachauriは、IPCCの手順によると、そのような会議の場合、通常は科学者及び専門家が参加し、選ばれた政府関係者の参加の可能性があると述べた。Christ事務局長は、IPCCの基準では、適切な場合、政府窓口またはオブザーバー組織、関連するWG議長団もしくはIPCC議長による指名が必要であると指摘した。
その後、議長のPachauriは、執行委員会及び事務局に対し、予算を配分して少人数のスコーピング会議を計画するよう要請することを提案した。パネルはこの提案に同意した。
IPCC執行委員会の活動報告
議長のPachauriは、IPCC執行委員会の月例活動について報告し、IACが以前の執行チームに価値を見出し、執行委員会の設置を提案、そこでの議論の詳細に関する報告書をパネルに提出することを提案したことから、この報告はIACの提案に従うものであると指摘した。
IPCC COI方針の実施
IPCC副議長でCOI委員会議長のHoesung Lee (韓国)は、IPCC COI委員会(IPCC-XL/Doc.12)について報告した。同副議長は、COI委員会はCOI書式を検討し、それがCOI方針と100%合致していることを確認したと述べ、審査を受ける候補者が行ってきた全ての業務の詳細を記入するよう要請すべく、書式の改定を提案した。パネルは、改定されたCOI書式を承認した。Lee副議長は、英国からの問い合わせに対し、COIを有することが明らかになったメンバーは一人もいない、しかし、疑いがある場合、委員会は、適切な注意をもって、COIの存在の有無を判断し、対処法を満場一致で決めることになると指摘した。
進捗状況報告書
TFIに関する進捗状況報告書:TFI共同議長のThelma Krug (ブラジル)は、TFIの進捗状況について報告した。(IPCC-XL/Doc.6, Rev.1) 同共同議長は、将来のTFIの活動に焦点を当てた、この中には、国家GHGインベントリ・2006年版IPCCガイドライン:湿地の手法論をオンラインのアンケート調査を利用して改善すること、TFIの将来作業で扱う特定分野を明らかにするため、2015年に2回、専門家会議を開催することが含まれる。同共同議長は、パネルは改定された2015年TFI予算を議論する必要があると述べ、この予算は数字的にはIPCC-39で承認されたものと異なるものではないと指摘した。ドイツは、現時点では、2016年の作業計画を承認することはできないとし、2015年の作業の進捗状況に基づき改定されると強調した。TFI共同議長は、2015年2月の次のIPCCプレナリー会合においてこの作業計画を検討すべきことで同意した。
影響及び気候の分析を支援するシナリオ及びデータに関するタスクグループ(TGICA):IPCC事務局長のChristは、TGICA進捗状況報告書(IPCC-XL/Doc.17)を提出、データ流通センター (DDC)の開発、技術ガイドラインの作成と活動、キャパシティビルディングに関する最近の活動を指摘した。同事務局長は、TGICAの議題には多数の新しい項目が追加され、その中にはDDCの長期ビジョンを示す議論用文書の作成が含まれると指摘した。同事務局長は、次のTGICAの会議は2014年11月24-26日、日本の横浜で開催されると述べた。
IPCCの奨学金プログラム:事務局長のChristは、IPCC奨学金プログラムの進捗状況報告書(IPCC-XL/Doc.8)を提出した。議長のPachauriは、奨学金を受ける人数を年間45-50名に増やせるよう、寄付金増額を支援するための資金源の特定に向け、パネルの支援を求めた。
IPCCプロセスの研究可能性に関する専門家会合に向けた準備:事務局長のChristは、この問題は予算への影響に鑑み、資金タスクチームでより詳細にわたり議論されていると指摘(IPCC-XL/Doc.10)、今のところ、専門家会合は2014年中ではなく、2015年2月に開催されると付言した。同事務局長は、執行委員会は専門家のリストの更なる検討を行う運営委員会を設置したと述べた。議長のPachauriは、地域バランス、性別バランスが検討されると述べた。
他の進捗状況報告書:Christ事務局長は、その後、他の進捗状況報告書を提出した:IPCCカーボンフットプリントに関するもの (IPCC-XL/Doc.11) ;IPCC AR5向けのWGIの進捗状況 (IPCC-XL/Doc.15);IPCC AR5向けのWGII進捗状況 (IPCC-XL/Doc.16)。IPCCカーボンフットプリントに関し、同事務局長は、IPCCの活動及び会議出張でのカーボンフットプリント削減努力を指摘、電話会議の利用やPapersmart(紙削減)システム、同じ場所で連続しての会議開催、会議の場所及び会場の選択におけるカーボンフットプリント基準の検討などを挙げた。
WGIでの進捗状況に関し、共同議長のStockerは、科学論文及び気候変動の文献を評価する科学者の負担が増えていると指摘、科学者による可能な限り有効かつ包括的な形での作業を確保するため、何らかの支援強化を検討すべきとの認識を持つよう求めた。WGI共同議長のDahe Qinは、AR5のメッセージを伝えることを目的とする中国でのコミュニケーション及びアウトリーチ活動を指摘した。WGI共同議長は、途上国及び経済移行国からより多くの科学者がAR6プロセスに参加してほしいとの希望を表明した。
WGII共同議長は、現在、全ての章の最終バージョンが利用可能になっていると指摘し、WGIIの重要な役割は地域の章を作成したことであると述べた。両共同議長は、WGII報告書の執筆者は報告書の結論に関し1千件以上のプレゼンテーションを行い、パートナー組織は適応のための科学ツールを専門家に確保させる活動に関わっていると指摘した。
WGIII共同議長のEdenhoferは、科学者は政策決定者が航行する多様な経路を探る航路図作成者(mapmakers)であると指摘した。同共同議長は、WGIII報告書の中の人間の居住と都市に関する章に焦点を当て、これで政府の各レベルを全て対象にすることになったと指摘した。同共同議長は、報告書本文は、2014年11月に刊行される見込みであると述べ、WGIII報告書のメッセージを伝えるため、相当規模のアウトリーチを行うと強調した。同共同議長は、2014年6月、ボンでのUNFCCC会議において、構造的専門家協議(Structured Expert Dialogue (SED))が開催され、参加者が利用でき、政策決定者の議論への参加を可能にする「地図作成(provide maps)」の機会を科学者に提供したと述べた。同共同議長は、SYRに関する全WGsの協力の素晴らしさを強調した。WGIII共同議長のPichs Madrugaは、政府関係者によるIPCCへの関心の高まりを指摘、IPCCの会合出席者がますます多様化する一方、それが結果における科学的な厳格さを損なっていないことを指摘した。サウジアラビアは、 WGIII共同議長がSEDに提出した排出量及び所得に基づく各国のグループ分けのスライドへの懸念を表明し、WGIII SPM承認プロセスにおいてはこの問題で大きな意見対立があったと指摘した。同代表は、これはIPCCの結論として提出されるべきでないとし、情報の普及方法への懸念を表明した。議長のPachauriは、同代表のコメントをこの会合の報告書に記載すると述べた。
UNFCCC及び他の国際的組織に関係する問題
事務局長のChrist及びUNFCCC事務局のFlorin Vladuは、UNFCCC SEDでのIPCCのプレゼンテーションに焦点を当て、交渉担当者と科学者の間で長時間の議論が行われたと指摘した。Christは、UNFCCC、UNEP、生物多様性条約、国連事務総長の気候サミットなどの他の会議についても指摘した。両者は、ペルーのリマでのUNFCCC COP 20では、IPCCの特別行事や多様なプレゼンテーションが行われると指摘した。
第5次評価報告書の作業部会IIIの政策決定者向けサマリーにおける間違いの指摘
WGIII共同議長のEdenhoferは、この項目(IPCC-XL/Doc.18)を提起し、WGIII SPMが承認されて以来、数件の間違いの可能性が明らかにされていると指摘した。同共同議長は、間違いに関するプロトコルに従った手順がとられており、これらの正誤表はパネルの承認のため提出されていると説明した。サウジアラビアは、重要な誤記についてはパネルの審議を受けるため提出され、重要であると結論付けられた場合は、SPMから削除すべきとする手順を提案した。オーストリアは、正誤表を議論する手順の再検討に反対し、手順はうまくいくことが証明されており、目的に適うものだと述べた。その後、参加者は正誤表を承認した。
その他の問題
事務局長のChristは、WGsを横断する科学知識のギャップを明らかにする目的で、AR5から学んだ学習事項に関するワークショップを開催するよう求める文書IPCC-XL/Doc.5を提出した。その後パネルは、国際地圏生物圏プログラムの要請、及びUNEP主催の気候変動への脆弱性、影響、適応に関する研究プログラムの要請を承認した。
次回会合の日にちと場所
IPCC-41は2015年2月24-27日、ケニアのナイロビで開催される。
会合の閉会
議長のPachauriは、AR5 SYRの実現に助力した全ての個人及びグループに対する感謝の意を表明し、この会合を主催したデンマーク政府及びチボリ・ホテルなど他の多くの人々に感謝した。 Christ事務局長、そしてWG共同議長を代表してWGII共同議長のChristopher Fieldも、Pachauri議長を含める皆への感謝を表明、議長もこれに応じた。
IPCC会議担当者のFrancis Hayesは、その後、Fred AstaireとGinger Rogersの踊りのシーンで、ハロウィーンのかぼちゃの頭を載せた案山子がパートナーになっているビデオをスクリーンに映し、「Let’s Face the Music and Dance」のIPCCパロディー版を見せて、参加者を楽しませた。
この会議は、AR5 SYRの採択とSPMの承認をもって閉会となり、11月1日土曜日、午後4時40分、閉会の槌が打たれた。
IPCC-40の簡単分析
コペンハーゲンにおける統合報告書(SYR)の承認をもって、気候変動に関する政府間パネルは、気候変動の原因、結果、可能な対応に関する第5次評価報告書を完成させた。6年前、ハンガリーのブダペストで開始されたAR5の執筆作業には、80を超える国の科学者830余名が参加、1,000名を超える寄稿執筆者、2,000名を超える専門査読者の作業を用いると共に3つの作業部会で作業した。このプロセスでは、175頁の「長文報告書(longer report)」とそのSPMで構成されるSYRを採択するに至った、このSPMは、何千頁もの報告書(それ自体3万件を超える科学論文をまとめたもの)から抽出した文書の更なる抽出であり、パネルの195カ国の政府メンバーによる行ごとの承認を受けた。このプロセスにより、AR5は、2015年にパリ会議で採択が期待されるUNFCCCの新しい国際合意に関する交渉を支援するなど、世界の気候政策に科学的根拠を提供すると期待される。この課題の作業の膨大さと複雑さは誇張しても誇張しきれないほどである。
とは言え、パネルの結論は、驚くほど率直で決定的である、すなわち:気候変動は不可逆的で前例がない;最も深刻な結果を回避するには、大幅で持続的な排出削減が必要である;行動を遅らせれば遅らせるほど、コストはかかり、将来、未試験の技術に頼らざるを得なくなる。
この簡単分析は、コペンハーゲンでのSYR採択作業に焦点を当てる一方、AR5全体が持つ重要な意味合いにも注目する。SYR記載の主要結論を取りまとめ、SPM承認プロセスを振り返り、世界の気候政策の進化という大きな観点からIPCC-40を位置付ける。
たとえわずかなりとも可能性がある間は…(Irving Berlin、Francis Hayes編曲)
人為的な気候変動というのは目新しいニュースではない(パネル自体、その第4次評価報告書において90%の確実性を持ってこのことを確言した)が、AR5は、気候変動が否定できない、未曾有のものであると確言する。さらにAR5では、人為的なGHG排出量が増加し続けており、過去数10年間の増加は、少なくとも過去80万年より早い速度で進行していると結論する。CO2の累積排出量を最大2900 GtCO2上限とする場合、安全域として広く議論され、UNFCCCの公式目標伴っている2℃以下で温暖化を抑制することは達成できる「可能性が高く」、その確率は66%である。このことは、2900 GtCO2という「カーボン・バジェット」の存在を意味するが、そのうちの合計1900 GtCO2は2011年までに既に排出済みであり、将来に残された排出可能量は1000 GtCO2である。言い換えると、人類はカーボン・バジェットの3分の2を消費済みということである。多くのものが指摘するとおり、現在の排出速度であれば、今後30年以内にカーボン・バジェットは使い果たされる可能性がある。
AR5は、カーボン・バジェットをこのような精緻な数値を持って検討した初めてのIPCC評価報告書である。これまでの評価報告書では、気候系への人為的な干渉が危険になったと見極められる前にどれだけの量のCO2を大気中に放出できるか、正確なところを世界に伝えきれなかったとすると、AR5は、カーボン・バジェットの3分の2が消費済みであり、3分の1しか残らない中、追加的かつ効果のある緩和が行われないなら、国際に合意された世界目標には届かなくなる可能性があることを極めて明確に示した。
さらにAR5は、時間が極めて重要であることも明らかにした、すなわち、早期に排出量のピークを迎え、今世紀末にはゼロに至るという速やかな減少を始めない限り、2℃以下で温暖化を抑制する可能性は低いことも明確にしている。世界の気温上昇を2℃までで抑え、今世紀末に大気濃度を450 ppm CO2eq近くにするというシナリオは、排出量を2050年までに2010年比で40-70% 削減し、2100年までに排出レベルをゼロ近くにすることを暗示する。
このような現実を踏まえ、IPCCは、AR5の中にリスク管理枠組を採用する。これは、気候変動とリスク、そして開発の相互の複雑なリンクを浮き彫りにする、そこでは、気候変動の影響により貧困、環境劣化、政治対立が悪化し、これによりリンクは「脅威倍数要素(threat multiplier)」として作用する。
AR4と比較すると、AR5は、シナリオを横断する情報の調整の点で大きく改善され、広範な社会経済面、技術面、制度面の考察を取り入れている。さらに海面上昇に関する確固とした予測、海氷の融解データを記載、未試験の二酸化炭素除去技術や地球工学のような広範な技術ポートフォリオも記載する。AR5は、海洋を地域として考えた初めてのIPCC評価報告書であり、気候変動の間接影響としての暴力事態の悪化といったテーマも取り上げる。持続可能な開発は、評価報告書ごとに強調される場合が多く、AR5では、気候変動の緩和と適応を持続可能な開発の概念の下で直視している。
AR5は、IPCCに関するIACのレビュー結果を受け、より確固とした慎重な評価報告書となっており、3つのWGsの評価作業の統合及び協調の面も改善され、WGIの作業を先行させることで、その結論をWGII及びWGIIIに提供できるようにした。
書いて、切って、貼って、保存して、切り取って、作業して、すぐに消してしまえ(Daft Punk)
SYRは、次のマンデートを有している、「評価報告書及び特別報告書に記載される資料を合成し統合する」。SYR SPM承認の会合では、毎回、SYRはWG報告書の単なる「コピペ(cut-and-paste)」なのか、それとも真に統合し付加価値を与えるものなのかが議論される。どちらにしても、SYR SPMの文章を見る限り、パネルが既に採択したWG報告書からの引用であり、その行ごとの承認プロセスは、ある意味でWG SPMの承認プロセスよりスムーズに運ぶ。対立点や問題は新しいものではなく、多少とも予想できるものであり、合意が無い場合でも、3つのWG SPMs自体には既に承認され、簡単には否定できない表現があり、それに立ち戻ることが可能である。
しかし、SYR (少なくともそのSPM)は、大半の政策立案者が読むそして/または引用する可能性が高い場合が多く、このため政治的には最も微妙で、直接の政策関連性を有する。このことは、コペンハーゲンでの議論でも明らかとなり、特にUNFCCC第2条に関する情報を記述するボックスの議論で、このことが見られた。この第2条は、条約の目的の概要を示すもので、条約の目的とは「気候系に対する危険な人為的干渉を及ぼさない水準において、温室効果ガスの大気中濃度を安定化させる。そのような水準は、生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ経済開発が持続可能な態様で進行することができるような期間内に達成されるべきである」とする。
パネルは、政策関連性はあるが政策を規定しない情報を提供するというマンデートに従い、SYRのスコープを最初に決定した際、この第2条への言及で合意した、その理由は、SYRはこの第2条の目標に直接関わる3つのWGsの結論を統合しているためである。しかし、この目標への言及に何を含めるべきかに関する見解を調整するのは容易ではない。一部の国は、より実効性の高いものを求め、国際協力及び資金援助など持続可能な開発の必要性に直接言及した。他のものは、この問題は政策規定的ではないという規則を逸脱すると考え、これら諸国に反対した。このことは、IPCCとはいえ単なるやりすぎの感があり、科学と政策の世界を分ける「である/分けるべき(is/ought divide)」に両股をかける形である。いずれにしろ、承認プロセスの複雑さや延々と続く交渉で、コペンハーゲン会議には、何らかの駆け引きをする余裕も時間も残されておらず、結局、このボックス全体が削除された。一部のものは、この成果に多少救われるものを感じた:第2条に関するボックス作成の努力は結局、SYRに一つの文章を挿入することで終わり、SYRにはUNFCCC第2条に関連する情報が含まれたとしている。言い換えると、報告書全体が(政策)関連となったのである。
「石器時代は石がなくなったから終わったわけではない」(IPCCのPachauri議長、元サウジ石油相の言葉を引用)
IPCC-40は、2015年のパリで待望される合意に向けた重要な一歩と言われるリマでのUNFCCC締約国会議のちょうど1カ月前に開催された。しかし皆は、このコペンハーゲンの会議場で行われたこの前の気候変動会議で起きたことを思い出していた、そのときもIPCCが前回の評価報告書―今回の報告書ほど総合的ではないにしても、実際に極めて似ている結論―を発表した直後に行われたことから、今回は、より大きな成果に結び付くのかどうか、疑問視する声が出た。UNFCCC第2条で合意できなかったこと、さらに他の表現(例、WGIIIにおける所得に基づく国のグループ分け)でも合意できなかったことも合わせ、リマやパリで起きることの前触れではないかとみられる可能性がある。しかし楽観主義者は、2009年では各国とも今日のように包括的な合意をする用意が無かったと論じられると思い返した。さらに、WMO事務総長のMichel JarraudがSYR発表の記者会見で指摘したとおり、今回は不確実性を理由に行動しないことを正当化できる余裕はない、各国政府は、行動をとらない場合、自国民に責任をとるよう求められるかもしれないと認識し始めているのではないかと指摘できる。
第5次評価サイクル終了後、さほど間もあいていないが、IPCCは、将来への道を歩みだす。IPCC-41では、第6次評価報告書を作成するかどうか決定すると見られ、その次のIPCC会合では、議長及び議長団を選出し、そのような決議がされた場合には、サイクルに沿い進めていくことになる。IPCC-41の議題には、IPCCの将来に関する決定も含まれ、AR5での学習事項も議論される。後者は特に有用である可能性があり、緩和と適応においてこれまで無視されてきた側面に注目する作業となりうる、この中には、研究開発に対する現在の資金拠出状況の評価などが含まれる可能性がある。IPCC自体は研究を行っておらず、むしろ公表された文献を評価しているが、パネルは、AR5プロセスを終え、多くの途上国、特にアフリカにおいて未だに知識のギャップが目立っている問題に積極的に取り組むべきとの決意を固めているようだ。IPCCプロセスへの途上国の参加を高めることは、実地の現実に関する理論家そしてモデル研究者など科学者社会での一層の意識向上を促すことになると期待される。
プランBなどない、惑星Bはないのだから(国連事務総長Ban Ki-Moon)
AR5 SYR記載の情報は、AR4の結論を「より強く(only more so)」確認するなど、ある意味で「古いニュース」のように見えるかもしれない。しかしIPCCの作業は開始されたばかりである。気候変動の速度が遅くなる可能性は極めて低く、このため全てのシステム及び場所への影響は増加する可能性が高い。研究や観測は増加し続け、アフリカや小島嶼に関する情報など、最も重要なギャップがある分野にまで科学研究範囲が拡大することが望まれる。緩和と適応においては、新しい技術及び手法を発明し、試験する必要がある。我々は、気候変動の原因や影響結果そして可能な対応策の評価を継続して行い、これを明確な言葉で、特に政策決定者に対し伝えるIPCCのような組織が必要である、その結論は政策決定者のものとし、このため対応策をとる暗黙の責任があるという風にする必要がある。
AR5プロセスで頻繁に繰り返されたたとえ話では、科学者は、地図を描くもの(map-maker)にたとえられてきた、異なる道筋をたどる場合の結果やそれに伴う不確実性を感じ取り、航海者(交渉担当者)がたどれる道筋や等高線を描くmap-makerとされた。しかし探検の時代は始まったばかりであり、地図にない領域を進むことも始まっている。多くの分野が、今後地図に描かれるべき範囲として残されている。我々にはオプションはない、国連事務総長のBan Ki-Moonの発言通り、「プランBなどない、惑星Bはないのだから。」
今後の会議予定
UNFCCC COP 20及びCMP 10のプレCOP閣僚会議:この会議はベネズエラ政府の企画によるもので、UNFCCC交渉での市民団体の参加について改めて考えることを目的とする。 日付:2014年11月4-7日 場所:ベネズエラ、カラカス 連絡先:Cesar Aponte Rivero, General Coordinator 電子メール: precop20@gmail.com
www:http://www.precopsocial.org/en
非CO2温室効果ガスに関する第7回国際シンポジウム(NCGG7):NCGG7は、メタン、亜酸化窒素、フルオロカーボン、黒色炭素、エアロゾル、対流圏オゾンなどの非CO2GHGs及びその前駆体の排出を制御する科学、技術、政策面の革新情報を検討する。 日付:2014年11月5-7日 場所:オランダ、アムステルダム 連絡先:NCGG会議事務局 電話:+31-30-232-29-89 ファクシミリ:+31-30-232-80-41 電子メール: office@ncgg.info
山岳部住民の変化への適応に関する国際会議:この会議では、山岳地域での地球気候変動に関する識見を得ることが期待される。日付:2014年11月9-12日 場所:ネパール、カトマンズ 連絡先:ICIMOD 電話:+977-1-5003222 ファクシミリ:+977-1-5003299 電子メール:adapthkh@icimod.org
www:http://www.icimod.org/adapthkh
REN21 再生可能エネルギー・アカデミー2014年:このイベントは、過去10年間の再生可能エネルギーの発展について進捗状況を把握し、世界のエネルギーの再生可能エネルギーへの一層の転換を推進する方法を探る。 日付:2014年11月10-12日 場所:ドイツ、ボン 連絡先:REN21 事務局 c/o UNEP 電話:+33-1-44-37-14-50-90 電子メール: secretariat@ren21.net www: http://www.ren21.net/REN21Activities/REN21RenewablesAcademy2014
第3回国連世界災害リスク削減会議の第2回準備委員会会議:災害リスク削減の第3回国際会議(DRR)の準備委員会による第2回会合では、ポスト2015年のDRR枠組草案の作成が期待される。この文書に関する交渉に加えて、次の問題を取り上げるテクニカル・ワークショップも開催される:ポスト2015年枠組の指標、モニタリング及びレビュープロセス;金融規制策への災害リスクの統合。日付:2014年11月17-18日 場所:スイス、ジュネーブ 連絡先:Elena Dokhlik、事務局 電話:+41-22-91-78861 ファクシミリ:+41-22-73-39531 電子メール:wcdrr2015@un.org
UNECE持続可能なエネルギーウィーク:この週では、次の会議などが開催される:エネルギー効率化に関する専門家グループ:再生可能エネルギーに関する専門家グループ;持続可能なエネルギー委員会の第23回会合。 日付:2014年11月17-21日 場所:スイス、ジュネーブ 連絡先:Stefanie Held、持続可能なエネルギー委員会事務局長 電話:+41-22-917-2462 ファクシミリ:+41-22-917-0038 電子メール:stefanie.held@unece.org
www:http://www.unece.org/index.php?id=35137
災害リスク削減に関する世界会議、2015年:災害リスク削減に関する世界会議は日本政府の主催、国連災害削減国際戦略の企画による会議で、ポスト2015年DRR枠組での合意が期待される。 日付:2015年3月14-18日 場所:日本、仙台 連絡先:Elena Dokhlik、事務局 電話:+41-22-91-78861 ファクシミリ:+41-22-73-39531
電子メール:wcdrr2015@un.org www:http://www.wcdrr.org/
影響及び気候分析を支援するデータ及びシナリオに関するタスクグループ(TGICA)第21回会合: TGICA-21は、気候変動関連のデータ及びシナリオの配布及び応用を推進する作業継続を目的に会合する。 日付:2014年11月24-26日 場所:日本、横浜 連絡先:IPCC事務局 電話:+41-22-730-8208 ファクシミリ:+41-22-730-8025
電子メール:IPCC-Sec@wmo.int www:http://www.ipcc.ch/activities/activities.shtml#tabs-4
災害緩和のためのインターアメリカネットワーク、第3回半球会合:この会議は、「災害リスク管理及び適応を開発アジェンダの気候変動問題に統合する」との主題で行われる。日付:2014年11月25-26日 場所:米国、ワシントンDC 連絡先:Pablo Gonzalez、OAS事務局、持続可能な開発部 電話:+1-202-370-4971 ファクシミリ:+1-202-370-3560 電子メール:pgonzalez@oas.org www:http://www.rimd.org/actividad.php?id=615
途上国における再生可能エネルギーに関する第2回国際会議(REDEC 2014):この会議では、途上国におけるエネルギー節減及び生産の解決策を探る。 日付:2014年11月26-27日 場所:レバノン、ベイルート 連絡先:REDEC事務局 電子メール:redecsecretary@redeconf.org www:http://www.redeconf.org
リマ気候変動会議: UNFCCCの第20回締約国会議(COP 20)及び京都議定書の第10回締約国会合(CMP)は、ペルーのリマで開催される。 SBSTA 41、SBI 41、ADP 2.7の会議も開催される。 日付:2014年12月1-12日 場所:ペルー、リマ 連絡先:UNFCCC事務局 電話:+49-228-815-1000 ファクシミリ:+49-228-815-1999
電子メール:secretariat@unfccc.int www:http://unfccc.int/meetings/lima_dec_2014/meeting/8141.php
第12回、開発と気候の日:第12回開発と気候の日は、「貧困ゼロ、排出ゼロ、一世代の間に」をテーマにCOP 20のサイドイベントとして開催され、貧困撲滅のためには気候変動の緩和、適応、回復力の向上が必要であることを強調する。 日付:2014年12月6-7日 場所:ペルー、リマ 連絡先: Red Cross/Red Crescent Climate Centre 電話:+31-70-44-55-886 ファクシミリ:+31-70-44-55-712 電子メール:climatecentre@climatecentre.org
www:http://www.climatecentre.org/site/development-and-climate-days
UNFCCC ADP:UNFCCCの下での行動強化のためのダーバンプラットフォーム特別作業部会は、2015年合意の推敲作業継続のため会合する。 日付:2015年2月8-13日 場所:: スイス、ジュネーブ 連絡先:UNFCCC事務局 電話:+49-228-815-1000 ファクシミリ:+49-228-815-1999 電子メール: secretariat@unfccc.int
気候変動に関する政府間パネル第41回会合:2015年前半のこの会合では特に、IPCCの今後の作業及びAR5で学んだことについて議論する。 日付:2015年2月24-27日 場所:ケニア、ナイロビ 連絡先:IPCC事務局 電話:+41-22-730-8208 ファクシミリ:+41-22-730-8025 電子メール:IPCC-Sec@wmo.int www:http://www.ipcc.ch
追加の会合及び最新情報については、右記を参照:http://climate-l.iisd.org/AFOLU AR5 AR4 CCS CDR COI COP CO2 CO2eq GHGs Gt IAC IPCC ppm RCP SPM SYR TFI TGF TSU UNEP UNFCCC WG WMO | 農業、林業、その他の土地利用 |