Curtain raiser
国連気候変動枠組み条約(UNFCCC) の交渉がドイツ・ボンにて本日開幕。2015年8月31日から9月4日までの日程で開催される。今次会議は「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」の第2回会合第10セッション (ADP 2-10)であり、ADP 2-1で採択された議題 (ADP/2013/Agenda)を踏まえ、ワークストリーム 1 (2015年合意)及びワークストリーム 2 (プレ2020年の野心)を中心に行われるものである。2015年合意の策定という特別作業部会のタスクは、2015年2月のADP 2-8で採択されたジュネーブ交渉テキスト(Geneva negotiating text:略称GNT)をベースに行う。
また、部会のシナリオノート (ADP.2015. Informal Note)の中で、ADP共同議長のAhmed Djoghlaf (アルジェリア)およびDaniel Reifsnyder (米国)は、ADP 2-9で定められた通り、「シナリオノート」に付属させるADP 2-10向けの「追加ツール」を用意したと説明し、シナリオノートには明確にオプション(選択肢)を盛り込み、いかなるオプションや締約国の見解も省略・削除することなく提示した上で、十分に文章をまとめて統合した、ジュネーブ交渉テキストの明快な簡潔版になるとしている。この「追加ツール」は、ジュネーブ交渉テキスト(GNT)の様々なパラグラフを3つの部分に分けて配置している。すなわち、1) 合意に盛り込むことが妥当な条項;2) 決定書に盛り込むのが妥当な条項;3) その配置に関して締約国から更なる明確な意思表示が必要とされる条項、である。両共同議長は、ADP 2-10では、締約国はそれぞれ、すべての条項の中身の検討に取り組み、いかに調整して最初に提示された割当て(配置)以上の内容となるか検討する必要があると指摘した。
ADP 2-10は、ワークストリーム2の下、締約国からの要請によって利用可能となった決定書草案を土台に交渉を進めることになる。
UNFCCC 及び 京都議定書のこれまでの経緯
気候変動に対する国際政治の対応は、1992年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の採択に始まる。UNFCCCは、気候系に対する「危険な人為的干渉」を回避するため、大気中の温室効果ガス(GHG)の濃度安定化を目指して、その枠組みを規定した条約であり、1994年3月21日に発効し、現在は196の締約国を有する。1997年12月、日本の京都で開催された第3回締約国会議(COP 3)に参加した各国の政府代表は、先進工業国及び市場経済移行国に排出削減目標の達成を義務付けるUNFCCCの議定書に合意。UNFCCCの下で附属書Ⅰ国と呼ばれる国々が、2008-2012年(第一約束期間)の間に、6種の温室効果ガス(GHG)の排出量を1990年と比較して全体で平均5%削減し、各国ごとに異なる個別目標を担うことを約束し、合意が成立した。京都議定書は、2005年2月16日に発効し、現在192の締約国を有する。
2005-2009年の長期交渉:カナダ・モントリオールで2005年に開催された京都議定書の第1回締約国会合(CMP1)で、議定書3.9条に則り、京都議定書の下での附属書Ⅰ国の更なる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)の設立を決定し、第一約束期間が終了する少なくとも7年前までに附属書Ⅰ国の更なる約束を検討することをその役割として定めた。
2007年12月、インドネシア・バリで開催されたCOP 13及び CMP 3では、長期的な問題に関するバリ・ロードマップについて合意に至った。COP 13は、「バリ行動計画」(BAP)を採択するとともに、「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会」(AWG-LCA)を設立して、緩和、適応、資金、技術、キャパシティビルディング、長期協力行動の共有ビジョンを中心に討議することを役割付けた。また、AWG-KPの下では、附属書Ⅰ国の更なる約束に関する交渉が続けられた。さらに、2つの交渉トラックが結論を出す期限については、2009年のコペンハーゲン会議までと定められた。
コペンハーゲン:2009年12月の国連気候変動会議は、デンマーク・コペンハーゲンで開催された。世間の大きな注目を浴びることとなった同会議は、透明性の問題やプロセスをめぐる論争が目立った。12月18日深夜、会議の成果として政治合意である「コペンハーゲン・アコード」が成立し、その後、COPプレナリーでの採択に向けて提出された。それから13時間にわたる議論の末、各国の政府代表がコペンハーゲン合意に「留意する(take note)」ことで最終的に合意。さらに、AWG交渉グループの期限をそれぞれ 2010年のCOP16及びCMP 6まで延長することで合意した。2010年には140カ国を超える締約国がこの合意への支持を表明し、80カ国以上が国家の緩和目標または行動に関する情報を提出した。
カンクン:2010年12月、メキシコ・カンクンでの国連気候変動会議が開催され、「カンクン合意」がまとまり、2つのAWGの期限をさらに一年延長することでも合意が成立した。条約の交渉トラックでは、決定書 1/CP.16で、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて2℃以内に抑えるには世界の排出量を大幅に削減する必要があることが認識された。また、2013年-2015年のレビュー期間中に、世界の長期目標の妥当性について検討することで締約国が合意し、その際に気温上昇幅1.5℃目標案を含めて世界の長期目標の更なる強化を検討するということでも合意した。なお、決定書1/CP.16には、MRV (測定・報告・検証)や、REDD+(途上国における森林減少や森林劣化からの排出削減や、森林保全、持続的な森林管理、森林炭素吸収源の強化策の役割)等、緩和に係わるその他の側面についても記載された。また、カンクン合意によって、新たな制度やプロセスがいくつか創設された。その中に、カンクン適応枠組み、適応委員会、技術メカニズムがあり、技術メカニズムの下に技術執行委員会(TEC)と気候技術センター・ネットワーク(CTCN)が設立された。また、緑の気候基金 (GCF)が新設され、条約の資金メカニズムの運用機関と指定された。議定書の交渉トラックでは、CMPが、総排出削減量を達成するべく附属書Ⅰ国に対して、その野心レベルを引き上げるよう促し、土地利用・土地利用変化・林業(LULUCF)に関する決定書 2/CMP.6を採択した。
ダーバン:2011年11月28日-12月11日、南アフリカ・ダーバンにて国連気候変動会議が開催された。ダーバン会議の成果としては広範なトピックが挙げられるが、特に2013年から始まる京都議定書の第二約束期間の制定や、条約の長期的協力行動に関する決定、GCFの運用開始に関する合意等があった。また、「条約の下で、全ての締約国に適用可能な、議定書、法的文書、もしくは法的効力を有する合意成果の形成」を目的とする新組織として、ADP(強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会)を発足させることでも合意された。ADPでの交渉は、2015年中に完了させることとし、2020年には新合意の発効を目指すこととした。さらに、2℃目標との関連で、2020年までの野心ギャップを埋めるための行動を模索する役割もADPに課された。
ドーハ: 2012年11月26日-12月8日、国連気候変動会議はカタール・ドーハにて開催。「ドーハ気候ゲートウェイ」と称される一連の決定書パッケージが作成され、京都議定書の第二約束期間(2013年-2020年)を定めるための議定書の改正事項やAWG-KPの作業を最終的にドーハで完了させるための合意等が盛り込まれた。また、AWG-LCAの作業完了やBAPの下での交渉終了についても合意が成立した。一方、世界目標の2013-15年のレビューや、先進国と途上国の緩和、京都議定書の柔軟性メカニズム、国別適応計画(NAP)、MRV、市場及び市場以外のメカニズム、REDD+等、さらなる議論が必要とされる多くの問題については、SBIとSBSTAに付託することとなった。
ワルシャワ: 2013年11月11日-23日、国連気候変動会議はポーランド・ワルシャワにて開催された。ADPの作業続行を含め、これまでの会議で成立した合意項目の実施が交渉の焦点となった。この会議では「各国の約束草案」(INDCs)のための国内準備の開始や強化を締約国に招請すること等を盛り込んだADP決定書が採択された。また、「損失・被害に関するワルシャワ国際メカニズム」の設立を定めた決定書、ならびにREDD+の資金や制度的アレンジ、方法論の問題等について定めた一連の7つの決定書が「ワルシャワREDD+枠組み」として採択された。
リマ: 2014年12月1-14日、国連気候変動会議はペルー・リマで開催された。リマ交渉の焦点は、2015年にパリで開催されるCOP 21の合意に向けて進展を図るために必要なADPでの成果であり、2015年の出来るだけ早い時期にINDCs提出用の情報やプロセスを明確にし、交渉テキスト草案の要素に関する議論を進展させること等であった。COP 20では、長丁場の交渉の末、「気候行動のためのリマ声明」(Lima Call for Climate Action)が採択されたが、これはINDCsの提出やレビューのプロセスの議論を含め、2015年合意に向けた交渉をスタートさせるためのものだった。また、19件の決定書も採択されたが、そのうち17件がCOP、2件がCMPのものであり、「損失と被害のためのワルシャワ国際メカニズム」の運用推進、「ジェンダーに関するリマ作業計画」の設置、「教育や啓発に関するリマ閣僚宣言」の採択を定めるものであった。リマ気候変動会議は、2015年合意の交渉テキスト草案の要素に関する細目詰めの作業における進捗を把握し、INDCsの範囲や事前情報、INDCs提出後に事務局がとるべき行動等、INDCsに関する決定書を採択したことで、パリ会議に向けた基礎固めを行うことができた。
ADP 2-8: 2015年2月8日-13日、スイス・ジュネーブでADP 2-8が行われた。会合の目的は、COP 20で定められた通り、決定書1/CP.20 (気候行動のためのリマ声明)に付属する交渉テキスト草案の要素に基づいた交渉テキストを作ることであった。ADP 2-8で採択されたジュネーブ交渉テキスト(GNT)(FCCC/ADP/2015/1)は、2015年合意に関する交渉の土台となる。
ADP 2-9: 2015年6月1日-11日、ドイツ・ボンでADP 2-9が開催され、ジュネーブ交渉テキスト(GNT)のスリム化や統合作業に加え、総則/目的、適応と損失・被害、緩和、資金、技術開発と移転、キャパシティビルディング、透明性、合意の前文、定義、時間枠(タイムフレーム)、実施と遵守、手続き・制度に関する条項等、分類や概念的な議論を行った。また、ADPで、ワークストリーム 2に関する議論も行った。交渉テキストに記載されたオプションやパラグラフの整理や統合作業を行い、オプションのグループ化作業を開始し、概念的な議論に入った。ワークストリーム 2では、都市環境でのエネルギー高効率化と再生可能エネルギー供給に関する技術専門家会合(TEMs)も開催された。
直近の関連会合ハイライト
INDC提出: 決定書 1/CP.19 及び 1/CP.20で、2015年の第1四半期までに準備できる締約国はINDC(約束草案)を提出し、条約の目的を達成するために実施予定の行動について概要を示すよう招請された。現在までに57の締約国がINDCを提出している。
非公式閣僚協議: 2015年7月20-21日、次期COP議長国フランスの主催で、COP 21に向けた非公式閣僚協議の第1回会合がパリで開催され、約30名の大臣を含む40名程度の交渉団が参集した。2日間の会合では、気候変動合意案の全体的なバランスや、野心のレベル、国連加盟国である締約国ごとに異なる発展のレベルや状況を考慮に入れるために残すべき「差別化」の程度等についての話合いが行われた。合意案の全体的なバランスについては全体会合(プレナリー・セッション)を行い、2つの促進グループにおいて「差別化」の運用や合意の野心レベルに関する意見交換が行われた。最終日には今後の方策についてプレナリー会合が実施された。
(IGES-GISPRI仮訳)