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国連気候変動枠組条約 (UNFCCC)の交渉がドイツ・ボンで10月19日~10月23日の日程で開幕する。今回の会議は「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」の第2回会合第11セッション (ADP 2-11)であり、今年4回目のADP会合となる。ADP 2-11は、ADP 2-1で採択された議題 (ADP/2013/Agenda)を踏まえ、ワークストリーム 1 (2015年合意)及びワークストリーム 2 (プレ2020年の野心)を中心に行われる。2015年合意の策定という特別作業部会のタスクは、2015年2月に開催されたジュネーブ気候変動会議で纏められた交渉テキストをベースに行っていく。

また、部会のシナリオノート (ADP.2015. 7.Informal Note)の中で、ADP共同議長のAhmed Djoghlaf (アルジェリア)及びDaniel Reifsnyder (米国)は、2015年12月にフランス・パリで開催される第21回締約国会議(COP 21)で最終的に策定することになる合意草案と付属する一連の決定書の作成に向けた文章ベースの交渉のペースを加速するよう提案した。ADP 2-11開催前に、共同議長がパリ気候パッケージ合意の交渉の叩き台となる草案文書とワークストリーム2に関する決定書草案を含むノンペーパーを作成している。

UNFCCC 及び 京都議定書のこれまでの経緯

気候変動に対する国際政治の対応は、1992年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の採択に始まる。UNFCCCは、気候系に対する「危険な人為的干渉」を回避するため、大気中の温室効果ガス(GHGs)の濃度安定化を目指して、その枠組みを規定した条約であり、1994年3月21日に発効し、現在は196の締約国を有する。1997年12月、日本の京都で開催された第3回締約国会議(COP 3)に参加した各国の政府代表は、先進工業国及び市場経済移行国に排出削減目標の達成を義務付けるUNFCCCの議定書に合意。UNFCCCの下で附属書Ⅰ国と呼ばれる国々が、2008-2012年(第一約束期間)の間に、6種の温室効果ガス(GHG)の排出量を1990年と比較して全体で平均5%削減し、各国ごとに異なる個別目標を担うことを約束し、合意が成立した。京都議定書は、2005年2月16日に発効し、現在192の締約国を有する。

2005-2009年の長期交渉:カナダ・モントリオールで2005年に開催された京都議定書の第1回締約国会合(CMP 1)で、議定書3.9条に則り、京都議定書の下での附属書Ⅰ国の更なる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)の設立を決定し、第一約束期間が終了する少なくとも7年前までに附属書Ⅰ国の更なる約束を検討することをその役割として定めた。

2007年12月、インドネシア・バリで開催されたCOP13及び CMP3では、長期的な問題に関するバリ・ロードマップについて合意に至った。COP 13は、「バリ行動計画」(BAP)を採択するとともに、「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会」(AWG-LCA)を設立して、緩和、適応、資金、技術、キャパシティビルディング、長期協力行動の共有ビジョンを中心に討議することを役割付けた。また、AWG-KPの下では、附属書Ⅰ国の更なる約束に関する交渉が続けられた。さらに、2つの交渉トラックが結論を出す期限については、2009年のコペンハーゲン会議までと定められた。

コペンハーゲン:2009年12月の国連気候変動会議は、デンマーク・コペンハーゲンで開催された。世間の大きな注目を集めた同会議は、透明性の問題やプロセスをめぐる論争が目立った。12月18日深夜、会議の成果として政治合意である「コペンハーゲン・アコード」が成立し、その後COPプレナリーでの採択に向けて提出された。それから13時間にわたる議論の末、各国の政府代表がコペンハーゲン合意に「留意する(take note)」ことで最終的に合意。さらに、AWG交渉グループの期限をそれぞれ 2010年のCOP 16及びCMP 6まで延長することで合意した。2010年には140カ国を超える締約国がこの合意への支持を表明し、80カ国以上が国家の緩和目標または行動に関する情報を提出した。

カンクン:2010年12月、メキシコ・カンクンで国連気候変動会議が開催され、「カンクン合意」がまとまり、2つのAWGの期限をさらに一年延長することでも合意が成立した。条約の交渉トラックでは、決定書 1/CP.16で、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて2℃以内に抑えるには世界の排出量を大幅に削減する必要があることが認識された。また、2015年までのレビュー期間中に、世界の長期目標の妥当性について検討することで締約国が合意し、その際に気温上昇を1.5℃以内に抑制するという目標案を含め、世界の長期目標の更なる強化を検討するということでも合意した。なお、決定書1/CP.16には、MRV (測定・報告・検証)や、REDD+(途上国における森林減少や森林劣化からの排出削減や、森林保全、持続的な森林管理、森林炭素吸収源の強化策の役割)等、緩和に係わるその他の側面についても記載された。また、カンクン合意によって、新たな制度やプロセスがいくつか創設された。その中に、カンクン適応枠組み、適応委員会、技術メカニズムがあり、技術メカニズムの下に技術執行委員会(TEC)と気候技術センター・ネットワーク(CTCN)が設立された。また、緑の気候基金 (GCF)が新設され、条約の資金メカニズムの運用機関と指定された。

また、議定書の交渉トラックでは、CMPが、附属書Ⅰ国に対して、排出削減の野心レベルを引き上げるよう促し、土地利用・土地利用変化・林業(LULUCF)に関する決定書 2/CMP.6を採択した。

ダーバン:2011年11月28日-12月11日、南アフリカ・ダーバンで国連気候変動会議が開催された。ダーバン会議の成果として広範なトピックが挙げられるが、特に京都議定書の第二約束期間の制定(2013年~2020年)や、条約の長期的協力行動に関する決定、GCFの運用開始に関する合意等があった。また、「条約の下で、全ての締約国に適用可能な、議定書・法的文書・もしくは法的効力を有する合意成果の形成」を目的とする新組織として、ADP(強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会)を発足させることでも合意した。なお、ADPの交渉は2015年中に完了させることとし、2020年には新合意の発効を目指すこととした。さらに、ADPには、2℃目標との関連で、2020年までの野心ギャップを埋めるための行動を模索する役割も課された。

ドーハ: 2012年11月26日-12月8日、国連気候変動会議はカタール・ドーハにて開催。「ドーハ気候ゲートウェイ」と称される一連の決定書パッケージが作成され、京都議定書の第二約束期間を定めるための議定書の改正事項やAWG-KPの作業を最終的にドーハで完了させるための合意等が盛り込まれた。また、AWG-LCAの作業完了やBAPの交渉終了についても合意が成立した。一方、2013-15年の世界目標の見直しや、先進国と途上国の緩和、京都議定書の柔軟性メカニズム、国別適応計画(NAP)、MRV、市場及び市場以外のメカニズム、REDD+等、さらなる議論が必要とされる多くの問題については、実施に関する補助機関(SBI)と科学的・技術的助言に関する補助機関(SBSTA)に付託することとなった。

ワルシャワ: 2013年11月11日-23日、国連気候変動会議はポーランド・ワルシャワで開催された。ADPの作業続行を含め、これまでの会議で成立した合意項目の実施が交渉の焦点となった。この会議では締約国に「各国の約束草案」(INDCs)に向けた国内準備の開始や強化を招請すること等を盛り込んだADP決定書が採択された。また、「損失・被害に関するワルシャワ国際メカニズム」の設立を定めた決定書、ならびにREDD+の資金や制度的アレンジ、方法論の問題等について定めた7つの決定書をまとめた「ワルシャワREDD+枠組み」が採択された。

リマ: 2014年12月1-14日、国連気候変動会議はペルー・リマで開催された。リマ交渉の焦点は、2015年にパリで開催されるCOP 21の合意に向けた進展を図るために必要なADPの成果であった。長丁場の交渉の末、「気候行動のためのリマ声明」(Lima Call for Climate Action)が採択されたが、これはINDCsの提出や点検のプロセスに関する議論を含め、2015年合意に向けた交渉を始動させるためのものであり、プレ2020年の野心の強化にも取り組むものであった。また、19件の決定書も採択されたが、そのうち17件がCOP、2件がCMPのもので、「損失と被害のためのワルシャワ国際メカニズム」の運用推進、「ジェンダーに関するリマ作業計画」の策定、「教育や啓発に関するリマ閣僚宣言」の採択を定めている。リマ気候変動会議は、2015年合意の交渉テキスト草案の要素の細目詰めの作業での進捗を把握し、INDCsの範囲や事前情報、INDCs提出後に事務局がとるべき行動等を含めたINDCsに関する決定書を採択したことにより、パリ会議に向けた基礎固めを行うことができた。

ADP 2-8: 2015年2月8日-13日、スイス・ジュネーブでADP 2-8が行われた。会合の目的は、COP 20で定められた通り、決定書1/CP.20 (気候行動のためのリマ声明)に付属する交渉テキスト草案の要素に基づく交渉テキスト作りであった。ADP 2-8で採択されたジュネーブ交渉テキスト(GNT)(FCCC/ADP/2015/1)は、2015年合意に関する交渉の土台となる。

ADP 2-9: 2015年6月1日-11日、ドイツ・ボンでADP 2-9が開催され、ジュネーブ交渉テキストの議論が開始され、ワークストリーム2に関する問題も討議された。進行グループでは、交渉テキストに記載されたオプションやパラグラフの整理や統合作業を行い、オプションの分類作業を開始。概念的な議論に入った。また、ワークストリーム 2では、都市環境での省エネや再生可能エネルギーの供給に関する技術専門家会合(TEMs)も開催された。

ADP 2-10: 2015年8月31日-9月4日、ドイツ・ボンでADP 2-10が開催された。締約国からの要請を受け、ADP共同議長は、ADP 2-9で簡素化・統合化した文書をベースに、今後の作業の指針となる「ツール」を作成した。各国の参加者は進行グループや「分科会」または進行グループの非公式会合で、文章のセクションを取り上げながら、ツールの様々な部分の議論を行った。また、グループ会合によって、ツール内のパラグラフの配置について検討し、主要問題の概念的な問題について議論し、文章上の提案にまで発展したケースもあった。

直近の関連会合ハイライト

2回非公式閣僚協議: 2015年9月6-7日、フランス・パリで57カ国の閣僚が出席する非公式閣僚協議が開催され、資金や技術、キャパシティビルディング、適応、損失・被害といったテーマを含む実施の手段(MOI)についての話合いが行われた。パリ合意については、MOIを中核として位置付け、とりわけ資金を重要不可欠な問題として強調し、適応と緩和を政治的に公平に扱うことを担保する必要があるとの点で幅広い合意があった。

気候変動に関するハイレベル・ワーキングランチ: 2015年9月27日に米国・ニューヨークの国連本部で開催されたワーキングランチには各国首脳が参集し、パリCOP 21で採択を予定する法的拘束力のある合意に向けた交渉に注力した。

ICCA2015: 気候行動に関する国際会議(ICCA2015) は2015年10月1-2日、ドイツ・ハノーヴァーで開催された。 ICCA2015は、国際交渉レベルで行われる意思決定と地方政府との分断を解消することを目指すもので、会合の成果として“ハノーヴァー宣言:地方の行動を促進する変革”が 出された。

IPCC-42: 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第42回総会 (IPCC-42) が2015年10月5-8日、クロアチア・ドゥブロヴニクで開催された。第6次評価報告書の作成に向けて、新たな議長団(ビューロー)が選出され、Hoesung Lee(韓国)が新たなIPCC議長に選出された。

財務相会合: ペルー・リマで開催される世銀・IMF年次総会に並行して、2015年10月9日、パリ合意の資金面に関する討議のための財務相会合が行われた。この会合では、フランス政府、ペルー政府の委託による経済協力開発機構(OECD)と気候政策イニシアティブによるレポート「2013-2014年の気候資金と1000億米ドル目標」の公表が行われた。

(IGES-GISPRI仮訳)

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