Summary report, 29 November – 13 December 2015

Paris Climate Change Conference - November 2015

パリ気候変動会議が2015年11月29日から12月13日にかけてフランス・パリで開催された。同会議は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP 21)および京都議定書第11回締約国会合(CMP11)で構成される。さらに並行して3つの補助機関(SBs)による会合、すなわち「科学的・技術的助言に関する補助機関」第43回会合(SBSTA 43)、「実施に関する補助機関」第43回会合(SBI 43)、「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」第2回会合第12セッション(ADP 2-12)も実施された。

パリ気候変動会議の参加者は総勢36,000人を上回り、各国政府関係者約23,100人、国連機関、政府間組織および市民社会組織の代表者約9,400人、報道関係者約3,700人が世界中から集まった。

会議の焦点は、法的拘束力のある合意および関連する決定書を含むパリ成果文書に関する交渉を進展させ、COP17(南アフリカ・ダーバン)でADPに託された「条約の下での、全ての締約国に適用可能な、議定書・法的文書・もしくは法的効力を有する合意成果の作成」を達成し、最終的にCOP 21で採択することである。ADPは、技術的交渉を進めるために1日前倒して11月29日(日)から始まった。

11月30日(月)に開かれた首脳会合には150ヵ国以上の首脳が一堂に介し、合意に向けた政治的意思の醸成が図られた。第1週目はADPの下での作業が集中的に行われ、横断的な問題や合意条項とは関連しない項目について検討するコンタクトグループ、並びに合意案の個々の条項および関連する決定書や2020年以前の野心に関する決定書案について議論するスピンオフグループが設置された。

12月5日(土)のADP閉会後、ADPの成果がCOPに送られ、引き続き合意案と決定書について議論するためにCOP 21議長国によってパリ委員会が設置された。12月6日(日)から12日(土)にかけては、パリ委員会の下で閣僚級が協議する会合(通称「インダバ」)や二国間会合、その他協議が実施された。COP 21議長が主導した12月10日(木)から11日(金)の集中協議の後、12月12日(土)の午前中にパリ委員会が招集され、最終案が提示された。締約国がグループごとに協議した後、夕方に再びパリ委員会が招集され、パリ協定および関連する決定書がCOP 21に送られた。同日午後7時29分、パリ協定および関連する決定書が採択された。

締約国は35件の決定書(COPの決定書23件、CMPの決定書12件)を採択した。主なものは以下の通り。

パリ協定の採択;技術メカニズムを通した技術開発および移転の強化;国別適応計画(NAPs)の策定・実施に関する進捗状況評価プロセスの決定;後発開発途上国専門家グループ(LEG)のマンデート延長;キャパシティビルディングの枠組み実施に関する第3回包括的レビューの委任事項採択;京都議定書の下での方法論的課題への対処(ドーハ改訂文書のセクションG、第7.3条terの明確化を含む);途上国における森林減少・劣化による排出の削減、および森林保全、持続可能な森林経営、森林吸収源の拡大(REDD+)に関する方法論的ガイダンスの提供;クリーン開発メカニズム(CDM)および共同実施(JI)に関するガイダンスの提供;2016-2017年2カ年度のUNFCCCプログラム予算の承認など。

ADPのReifsnyderおよびDjoghlaf両共同議長が、合意と決定書の草案および考察ノート(FCCC/ADP/2015/L.6/Rev.1 and Add.1)をCOPに提出し、ADP報告書が採択された。

草案文書の進展を図り、妥協を促す目的で、COP 21のFabius議長が委員長を務めるオープンエンド型で単一セッティングの「パリ委員会」での作業を含め、同議長が概要をとりまとめた作業方式について締約国の合意が得られた。Fabius議長は、「全てが合意されるまで何の合意もない」という原則に則ってパリ委員会が作業を進めること、および透明性を促進するために会議の様子を議場のスクリーンに映し出すことを発表した。

またFabius議長は、法律面や文言について検討するレビューグループが12月11日(金)までに関連する問題に対処できるように、最終的な成果を出さなければならないと述べた。

南アフリカはG-77/中国の立場から、交渉プロセスの明瞭さと予測可能性が重要であると強調し、「考察ノート」を更新し、欠落している提案内容を反映するよう求めた。

モルディブはAOSISの立場から、適応や損失・被害などの問題にどのように対応するかを明確にするよう求めた。

スーダンはアフリカン・グループの立場から、重要課題が合意から抜け落ちていると指摘しながらも、締約国がこうした課題に対処すると確信していると述べた。マーシャル諸島は、特に1.5°Cの気温目標と長期的な気候資金の確約をパリ合意に記すよう求めた。

オーストラリアはアンブレラ・グループの立場から、ADP文書が締約国主導で締約国自身のものになっていると述べた。サウジアラビアはアラブ・グループの立場から、各国の取り組みに関する目標設定は、IPCCのように「実証済みの科学によって具体化されなければならない」ことを強調した。

グアテマラはAILACの立場から、実効性のある合意を実現させるには、「これは我々の原案であり、互いの意見を聞いて各自のニーズを明確に示すのは我々の能力次第だと認識することが必要だ」と呼びかけた。アンゴラはLDCsの立場から、COP議長団が「公式」に、LDCs諸国を除外して法律・文言に関するレビューグループを発足させたことに失望感を示した。

マレーシアはLMDCsの立場から、同グループの善意の取り組みを強調した上で、「世界は変化した」というフレーズが繰り返し使われていることに懸念を示した。中国は、野心的なパリ成果文書は、ダーバン・マンデートのあらゆる要素を同等に重視する必要があると強調し、先進国が主導すべきだと述べた。

アゼルバイジャンは、自国の主張を考察ノートに盛り込むよう求めた。トルコは、自国を交渉に関する協議の一グループとして扱ってほしいと述べた。ネパールは、山岳生態系の脆弱さを強調した。

パリ委員会:12月5日(土)、ADP文書案を受け取ったCOP 21のFabius議長は、「全てが合意されるまで何の合意もない」、「全ての締約国が参加する」、「透明性を維持する」という3つの原則に則ってパリ委員会を進めると説明した。

Fabius議長は、パリ委員会の下に「インダバ」と呼ばれる3つの非公式な閣僚級協議を設置すると発表した。インダバのテーマは以下の通り。「支援」:進行役はEmmanuel Issoze-Ngondet(ガボン)およびJochen Flasbarth(ドイツ);「緩和、透明性、資金(2020年までの資金を含む)との関連における差異化」:進行役はIzabella Teixeira(ブラジル)およびVivian Balakrishnan(シンガポール);「野心、長期目標および定期的レビュー」:進行役はPa Ousman(ガンビア)およびAmber Rudd(英国)。

12月7日(月)、Fabius議長はさらに以下のインダバの設置を発表した。「適応および損失と被害」:進行役はRené Orellana(ボリビア)およびÅsa Romson(スウェーデン);「協力的アプローチとメカニズム」:進行役はCatherine McKenna(カナダ)およびRaymond Tshibanda N’Tungamulongo(コンゴ民主共和国);「森林」:進行役はDaniel Vicente Ortega Pacheco(エクアドル)、Doris Leuthard(スイス)およびHenri Djombo(コンゴ共和国)。またFabius議長は、Jan Szyszko(ポーランド)およびKhaled Mohamed Fahmy Abdelall(エジプト)が進行役の「対応措置に関する作業部会」、Claudia Salerno(ベネズエラ)が進行役の「前文」に関するインダバ、Rafael Pacchiano(メキシコ)が進行役の「実施と遵守の促進」に関するインダバの実施も発表した。

インダバは12月6日(日)から12月8日(火)にかけて開催され、パリ委員会は12月7日(月)から12月9日(水)にかけて大半のインダバからの報告を受けた。パリ委員会は12月12日(土)まで引き続き実施された。

支援/MOI(実施手段)に関し、共同進行役は、特に支援の提供と気候資金の動員について可能な共通点を見出すことで進展があったと述べ、既存の約束を達成し、先進国が先導することを再確認したと報告した。また共同進行役は、他の締約国が果たす役割を表す特定の表現案を紹介した。例えば、「自主的な貢献(voluntary contributions)」、「行う立場にある/行う意思がある/行うことができる他の国の貢献(contributions by others in a position/willing/able to do so)」、あるいは南南協力への言及などだが、共同進行役は、一部の締約国がこれらの表現案に対して強い難色を示し、既存の条約の条項および原則と一致させるよう求めたと指摘した。

共同進行役は、技術の開発と移転(第7条)および関連する決定文書のテキスト案について意見の集約が見られたと報告し、特に意見が一致した分野として、協力的行動、長期ビジョンおよび技術枠組みを挙げた。

能力開発(キャパシティ・ビルディング)に関しては、キャパシティ・ビルディングに関するパリ委員会の設置について合意が成立し、キャパシティ・ビルディングに関する長期作業計画への理解が進んでいると報告し、今後は委員会の作業方式についての議論を続けると述べた。

差異化に関し、共同進行役は、約束を後退させず先進国が先導し続けるという保証が「強い共鳴を呼んだ」と述べた。また透明性と資金に関するセクションでの差異化については、先進国が後退せず先導し続けるという保証が得られたこと、および途上国に柔軟性を与えながら差異化を実現することで全般的な意見の一致が見られたことを報告した。

透明性に関し、共同進行役は、キャパシティ・ビルディングと支援が差異化を反映する主な要素であるという「広範な認識」が得られたと報告した。また資金に関して、一部の締約国が、「途上国に対して新たな法的義務を設ける意図は全くないが、自主的貢献は奨励する」と強調したことを述べた。

12月9日(水)、共同進行役のBalakrishnanは、「締約国はまだ最終的な立場を表明する準備ができていない」と指摘し、共同進行役が議長国や事務局と共に原案に関する意見の対立点を明らかにする作業を行うと述べた。

野心に関し、共同進行役は、全体的な進捗状況を評価・精査し、各国の目標を確認あるいは引き上げるため(ただし義務付けはなし)の共通の「世界的な瞬間(global moment)」を5年ごとに設けることに意見の収斂があったと報告した。また、一部先進国と途上国が1.5°C上限に言及する意思を示したが、他の国はカンクン合意で決められた気温上昇限度を再確認したと述べた。

12月9日(水)、共同進行役は、ほとんどの国が1.5°Cの気温上昇限度を合意の目的に反映させ、持続可能な開発、実施手段、衡平性、食料安全保障に関連した規定を加える意思を持っていると報告した。

2020年以前に関し、共同進行役は、締約国が妥協案を検討したと報告した。妥協案には、2017年に開始される可能性がある促進的対話(facilitative dialogue)が含まれ、同対話の目的は、全ての締約国による条約の実施状況を、より先進国に焦点を当てながら調査し、一層の強化を図るための選択肢を検討することである。また共同進行役は、適応の技術検証プロセス(TEP)について、条約の既存組織の作業と重複しない限り付加価値があるという点で共通の認識が得られたと述べ、緩和TEPの制度的取り決めを適応TEPに反映し、適応委員会に主な役割を持たせることで意見がまとまりつつあると強調した。一方、実施の加速については意見が分かれていると述べた。

協力的アプローチについて、共同進行役は、環境十全性、二重計上の回避、それらアプローチの自主性を含む基本理念について締約国が討議したことを報告した。また持続可能な開発の支援メカニズム(草案第3条ter)については、長期的な永続性をもった仕組みが必要との意見がある一方で、協定の中に盛り込むべきではないとの意見もあると報告した。

適応および損失と被害について、共同進行役は、条約第2条(目的)に沿った適応のための明確な目標;緩和と適応との関連性の認識;柔軟性があり途上国に追加的な負担を課さない報告プロセス等の着地点について強調した。また、気温目標、脆弱性およびCBDRの記載を含め、決議が必要な横断的課題も指摘した。損失と被害に関しては、制度的取り決めについて議論が進行中だと述べ、まだ意見の収束が見られないと報告した。

実施の促進および遵守について、共同進行役は、まずその性質と目的の定義について合意する必要があり、手順と手続きについては後の段階で合意を目指すべきだという全般的な認識があると述べた。また、この部分に差異化を反映させるか否かについては意見が分かれていることを指摘した。

12月9日(水)、COP 21のFabius議長は、修正されたパリ成果文書案を提示した。締約国はプロセスの透明性を歓迎し、同文書案を交渉の土台として受け入れたが、多くの締約国からはいくつかの懸念点が示された。

南アフリカはG-77/中国の立場から、エジプトはアフリカン・グループの立場から、特に差異化に関して、文書案の文言と条約との間に「乖離(delinking)」があること、および条約の原則が骨抜きになっていることに懸念を表明した。またG-77/中国は、MOIに対する適切な資源がないこと、一方的措置に関する言及がないことへの懸念をLMDCsと共に示した。さらに損失と被害に関する条項を個別に設けることも求めた。

マレーシアはLMDCsの立場からCBDR原則の取り込みを強調し、各国が決定する緩和貢献(NDMCs)の文言への懸念を表明した。またアラブ・グループと共に炭素価格制度への言及に反対し、さらにワークストリーム2の進展はワークストリーム1の前進に欠かせないと強調した。

オーストラリアはアンブレラ・グループの立場から、全ての締約国が最善を尽くすという共通の合意の下で、先進国が先導し続けることを引き続き保証すると強調した。

アンゴラはLDCsの立場から、資金へのアクセスを確保する必要があると強調した。

アフリカン・グループは、個別の約束に対する支援への言及がないこと、および適応に関する世界的な目標を実現(operationalize)するための主な要素が欠けていることについて懸念を表明した。

EUは、2020年以降、支援を行う立場にある国が、資金を必要とする国への資金支援の拡大に参加すべきだと強調した。また、長期にわたって野心を引き上げていくメカニズムが大幅に弱くなったことに懸念を示した。

サウジアラビアはアラブ・グループの立場から、「行う立場にある国」という言及に改めて懸念を表明し、緩和の「形式」の中に適応の共同便益を再度入れるよう求めた。またサウジアラビアとEUは、遵守に関して二重の要件がないことを指摘した。

モルディブはAOSISの立場から、カリブ共同体(CARICOM)の立場で発言したバルバドスおよび他の多くの国と共に1.5°C目標の重要性を強調し、損失と被害に関する文言について締約国の間で協議が進められていると述べた。

グアテマラはAILACの立場から、ジェンダーへの言及を前文に含めるべきだと述べた。また緩和に関する条項の「特徴」として、定量化されたまたは定量可能なユニラテラルな要素を盛り込むことを支持し、さらに適応行動の登録簿(registry)も求めた。

12月10日(木)午後9時、COP 21のFabius議長はパリ成果文書草案の改訂版を示し、2つのグループ、つまり議長自身が進行役を務める「解決策のインダバ(indaba of solutions)」と、COP20議長を務めたManuel Pulgar-Vidal(ペルー)が進行役の非公式協議が、並行して夜通しで審議すると発表した。

解決策のインダバでは、差異化、野心、および資金に関する議論が行われた。多くは差異化に支持を表明したが、緩和、透明性、資金その他様々な規定の中でどの程度差異化を反映させるかについては意見の相違があった。ある締約国は、INDCsを「差異化の金字塔」と呼び、別の締約国は、透明性制度に先進国と途上国の差を反映させるべきだと主張した。

差異化に関するスピンオフグループが、緩和と透明性について進展があったと報告した。多くの締約国は1.5 °C気温目標を反映させる必要があると強調したが、数カ国が反対した。また一部の国は5年サイクルの必要性を支持した。

12月11日(金)、締約国は、野心、差異化、資金をめぐる主な問題を解決するために、終日にわたって非公式協議と二国間協議を行った。

12月12日(土)午前11時30分にパリ委員会が招集され、COP 21のFabius議長は、バランスのとれた野心的な合意をまとめた最終文書が会合後に配布されると発表した。さらに議長は、同文書には達成不可能だと考えられていた主な要素が盛り込まれていると述べ、「差異化、公平性、永続性があり、バランスのとれた、ダイナミックで、法的拘束力を備えたものになった」と強調した。また議長は、この合意は世界全体並びに各国にとって不可欠なものだと述べ、島嶼国を支援し、資金調達を迅速化し、化石燃料国が経済を多様化する手助けをするだけでなく、低炭素経済を構築するために全ての国を支援すると強調した。

国連のBan Ki-moon事務総長は、数十年にわたる旅路の決定的局面を迎えたと指摘し、締約国に提示される文書は歴史的なもので、低炭素かつ気候変動に強い世界への新たな道を約束すると述べた。また事務総長は、国益にとって最善なのは世界が結束して行動することだと認識する時が来たと強調し、妥協の精神をもって「仕事をやり遂げる」よう各国に求めた。

フランスのFrançois Hollande大統領は、「ここで歴史を作る」と述べ、先送りは許されないと強調した。また交渉が決定的な瞬間を迎えた今、「合意を実現したいのか?」という問いに答えられるのは締約国だけだとし、合意文書案は野心的かつ現実的だと説明した上で、気候変動に関する初めての世界共通の合意を採択することで世界を変えるチャンスをつかむよう代表団に訴えた。

COP 21のFabius議長は、現在パリ成果文書の最終合意案を国連の全ての公用語に翻訳中で、午後1時30分に配布予定だと述べ、各国が精査した後、パリ委員会の全体会合で「一連の必要な手続き」を進めることを提案した。

午後5時30分、Fabius議長はパリ委員会を再開し、以下の作業構成について説明した。オープンエンド形式で法律・文言を検討する専門家グループ共同議長からの報告;事務局によるパリ成果文書案(FCCC/CP/2015/L.9)に関する見解の明確化;COPへのパリ成果文書案の提出。

法律・文言のレビューについて、共同議長のJimena Nieto Carrasco(コロンビア)は、レビューグループが12月10日(木)と12月12日(土)に会合を持ったと述べた。同議長は、技術的修正が必要だと述べ、合意案の英語版と京都議定書を対応させるのであれば、翻訳版も京都議定書と整合させるべきだと指摘し、さらに頭字語を略さずに記載するよう提言した。

UNFCCC事務局長代理のRichard Kinleyは、技術的な修正箇所を列記した。これらの箇所は修正版(FCCC/CP/2015/L.9/Rev.1)に反映されている。

COP 21のFabius議長は、法律・文言を検討するレビューグループと事務局が行った技術的修正を反映させたパリ成果文書案をCOPに提出することを提案し、締約国はこれに合意した。パリ委員会は午後7時25分に閉会した。

条約の下での、全ての締約国に適用可能な、議定書・法的文書・もしくは法的効力を有する合意成果の作成:12月12日(土)午後7時25分、パリ協定案について検討するためにCOP全体会合が招集された。COP 21のFabius議長は、同文書に記載された決定を採択するようCOPに要請した。午後7時26分、パリ協定が全会一致で採択された。多くの締約国は、パリ協定およびその採択を実現させた議長国フランスの努力を称賛した。また締約国の多くは、「パリ協定は完璧ではないが不可欠なものだ」と強調した。

全ての国に適用される条約の下の議定書、法的文書、法的拘束力のある合意された成果の採択:COP全体会合はパリ協定案を検討するため、12月12日(土)午後7時25分に開催された。ファビウスCOP21議長は、COPに対して、文書(FCCC/CP/2015/L.9/Rev.1)に含まれる決定の採択を招請した。反対国はなく、午後7時26分にパリ協定は採択された。多くの国が協定と達成のための議長国フランスの作業を称賛した。多くが、協定は完璧ではないものの必要なものであると述べた。

南アフリカは、ネルソン・マンデラ氏の「自由への長き道」を引用し、決定および2020年以前の資金の引き上げに関して更なる技術的な作業が必要であるとした。

オーストラリアは、アンブレラ・グループとして発言し、COP21は、繁栄する未来の確保に向けて全ての国が役割を果たすための枠組みを構築するグローバルな協定を生み出した。協定は、先進国が気候行動への支援提供のリードを継続することを確認しつつ、その他の国が果たしうる重要な役割を認識しているとした。

ニカラグアは、協定採択前にCOP21議長がニカラグアを認識しなかったことに遺憾の意を表明し、以下に関して含めることを提案した。グローバルな炭素バジェットを歴史的責任の観点から計測できるようにするパラグラフ、INDCの結果として工業化以前のレベルと比べて世界の平均気温を1.5℃未満に抑えることができなかったときに備え、気候正義に関するパラグラフ、歴史的責任に基づいた補償基金の設置に関するパラグラフである。また、協定に関して留保できないことにも遺憾の意を示した。

スイスは、環境十全性グループとして発言し、協定は法的拘束力があり、野心的で衡平であり、将来の発展に向けた柔軟性があり、気候変動と闘うための野心的な基盤を提供するものであると説明した。

「歴史的な合意」を安全と安定を提供するランドマークであるとして歓迎しつつ、EUは、「皆がこの合意を具体的な行動に変えなければならない」と強調した。「今日は祝い、明日は行動しなければならない」との声に同調し、EUは、高い野心コアリションの設置に言及し、EUは2020年に資金支援をスケールアップし、より予測可能にすることを強調した。

エジプトはアフリカグループとして、歴史的なパリ協定は、持続可能な開発にとってより大きな意味を持っていると発言し、COP21議長に、アフリカの特別な事情に関する協議をSB44にて行うよう求めた。スーダンはアフリカグループとして、資金と支援の透明性に関する課題が協定の実施の中心であると強調した。

セントルシアはCARICOMとして発言し、パリ協定は、多国間主義の圧倒的勝利であり、1.5℃目標という形で引き上げられた野心を歓迎し、損失と被害が協定の中で別に扱われたことを歓迎した。

モルディブはAOSISとして発言し、気候変動に関する行動の最近の著しいシフトと世界中からのより大きな資金約束を強調し、「歴史は、我々が本日成し遂げたことではなく、今日から先何をするかにより判断するだろう」と述べた。

人権とジェンダーの重要性と(協定に)含まれたことを強調し、コロンビアはAILACとして発言し、協定が全ての国に適用されるのみならず、皆自身のものであることを称賛した。

サウジアラビアはアラブ・グループとして発言し、「持続可能な開発をよりよく達成できる」合意を達成できたことについて世界中を祝福した。

パナマは熱帯雨林諸国連合として発言し、REDD+を実施するためのメカニズムは、国家および非国家アクターが参加し、熱帯雨林の生態系サービスに依存するコミュニティーに貢献することができると述べた。

アンゴラはLDCsとして発言し、協定は全ての国に適用され、1.5℃の世界共通の気温目標に向けた動きを、定期的なレビュー、グローバル・ストックテイク、特定のニーズの認識などを通じて促進するものであると述べた。

パリ協定は始まりに過ぎないと述べ、Hollande大統領は、フランスが、2020年までにGHG輩出削減目標および特に脆弱国における適応に関する資金貢献について見直しをすることを約束し、「明日から」投資を転換するための炭素価格を実施するためのコアリションに皆が参加することを招請した。

パリ協定は、「惑星と人類にとっての歴史的な成功」であると述べ、Ban Ki-moon国連事務総長は、「全ての主要事項における確固たる成果」があると述べた。

Christiana Figueres UNFCCC事務局長は、パリ気候変動会議は、各国代表団、個人、機関の長年の作業に基づく成功であり、パリ協定は、最も脆弱な人々との結束を表し、「この新しい法的枠組みを今世紀の残りを安全な成長へのエンジンに転換する」との長期的なビジョンを示す信念の一つとして説明した。

トルコは、COP21議長に、トルコが挙げたCOPにより認識されている特別な事情にある締約国の、協定の下の支援へのアクセスに関する議題について解決に向けた作業を期待すると述べた。Fabius COP21議長は本課題に関する協議を行うことを約束した。

協定が衡平、正義、包括的、野心的、効果的、永続的であるとし、中国は緩和と適応、行動と支援のバランスも反映していると述べた。

米国は、パリ協定は、気候変動の最も壊滅的な影響を避けつつ新しい道筋へ前進するための「力を与え」、世界市場に対してクリティカルなメッセージを送り、技術革新を引き起こすものであると述べた。

協定は、特に先進国の「衡平な分担」に関して、より野心的であるべきであったとしつつ、インドはパリ協定を歓迎し、差異化の継続的な適用について、その他と共に強調した。

モロッコは、2016年のCOP22をマラケッシュにおいてホストすることを述べ、全てのステークホルダーと共にパリ協定をオペレーショナルするために取り組みたいと述べた。

ベネズエラとボリビアは、協定に気候正義と母なる地球などが含まれたことを歓迎した。

セネガルは、パリ協定の「本格的な」適応の役割を強調し、緩和成果の国際移転を通じた脆弱国への支援に関する今後の作業を強く求めた。エクアドルは、定量可能な目標を求め、低排出開発戦略の役割を強調した。

フィリピンは、協定が人権を正式に認めたことを強調し、気候脆弱性フォーラムを主導する立場として、気候変動との安全で強い未来のための闘いを主張し継続することを約束した。ジャマイカは、パリ協定は衡平な協定であり、これに基づいて取り組んでいけるとし、1.5℃への言及と、損失と被害を別の条項として含まれていることを強調した。

乾燥した椰子の葉でつくった襟章を高い野心コアリションのメンバーが着けていると述べ、マーシャル諸島のユース代表は、「これが島々の話ならば、これは世界の話」と述べた。ツバルは、首相のリーダーシップを強調し、パリ協定はツバルを救うことで世界を救ったと述べた。

チリは、炭素価格の認識を歓迎し、パリの成果は、「化石燃料の時代の終わりの始まり」であると述べた。

バハマはSIDSのニーズに対応している法的拘束力のある協定を成し遂げたことからCOP21を祝い、ワルシャワ国際メカニズム(WIM)の進展に期待するとした。

パプアニューギニアは中央アフリカ共和国と共に「REDD+がパリ協定に含まれたことの喜び」を表明した。

ギニアはキャパシティ・ビルディングおよび技術移転のための基金が効果的であることを期待した。

「共にあることでより強くなる」と強調し、ビジネスと産業NGOは、協定における民間セクターの役割を歓迎した。

現在のINDCsが「危険なほど不十分」であることを懸念し、気候行動ネットワーク(CAN)は、環境NGO(ENGOs)として発言し、2025年に野心的な目標を持てるよう2018年に約束を改善することを締約各国に求めた。

「この部屋の中の否認は明白である」とし、「クライメート・ジャスティス・ナウ(Climate Justice Now)!」はENGOとして発言し、協定は弱いが気候正義の動きは強く、人々のためになるエネルギー革命を成し遂げるとした。

パリ協定の実施のための連携を約束し、研究と独立NGOs(RINGOs)は、科学者や教育者は能力構築やプログラムの開発、政策提言などを通じて支援を行っていくと述べた。

労働組合は、協定は正しい目標を設置したが、その実施のためのメカニズムに関して明白でないと述べた。

女性とジェンダー(グループ)は、ジェンダーの公平性の「単なる認識ではなく」、オペレーショナルすることを求めた。

ユースは、北の国々が「あなた方世代が引き起こした」気候変動の責任から免除されたことを遺憾とした。

地方政府や地方自治体は、モロッコからの、COP22はリマ・パリ行動アジェンダに基づき築き上げていくとのアナウンスを歓迎した。

先住民は、彼らの三つのメッセージが、求めた通りに完全ではないが協定に含まれたことを強調した:先住民の権利;1.5℃以下の気温目標;伝統的知識の認識と尊重。

パリ気候変動会議の概要分析

パリではこれまで多くの革命があったが、今日、最も美しく最も平和的な革命が成し遂げられた。それは気候革命だ。

— François Hollande(フランス大統領)

2015年のパリ気候変動会議はそもそも成功する運命だったと言えるだろう。法的拘束力のある合意を目指した2009年のコペンハーゲン会議が大失敗に終わったことで、多くの国は「パリでは失敗は許されない」と感じていた。しかし一方で、骨抜きまたは意味のない成果になってしまうという懸念もあった。結局、UNFCCC COP 21は期待を上回る成果を挙げ、革命ではないかもしれないが、気候ガバナンスの進化や環境多国間主義の再確認という点で重要なステップとなる合意を生み出すことができた。

COP 21では、195カ国が、2011年のダーバン会議で自らに課した「条約の下での、全ての締約国に適用される、議定書、別の法的文書、もしくは法的効力を有する合意された成果の作成」という任務を完了するために集まった。本概要分析では、全ての国の参加という点だけでなく、締約国による野心的な行動と気候危機への取り組みにおいて不可欠だと言われている「幅広い参加者による行動」を促進させるパリ協定の効果という点において、締約国がこの任務をどの程度達成したかを検証する。

進化と革命

パリ協定は、気候ガバナンスの進化、およびUNFCCC COPプロセスの革命と特徴づけることができる。特に重要なのは「5年サイクル」で、各国が自主的に定める貢献(NDC)サイクルの目標を、常にその前のサイクルよりも野心的なものにしなければならない。また、緩和・適応・支援の世界的取り組みに対する世界全体の「進捗状況評価」を行うことが定められ、同評価は2023年以降、5年間隔で貢献サイクルの途中の時期に実施される。

締約国は、同サイクルにおいて、世界の気温上昇を産業革命前と比べて2℃を十分に下回るレベルに維持するための取り組みを「強化」し、さらに気温上昇限度を産業革命前と比べて1.5°Cまでにすることを目指して努力しなければならない。また締約国は、進捗状況を追跡できるように透明性に関する枠組みに従わなければならず、同枠組みは、NDCsの実施・報告義務と共に、パリ協定の中で法的拘束力のある規定の代表例である。

パリ協定は、(特に実施手段に関する)制度およびメカニズムの確立・強化・形成についても定めており、同協定を支える決定の中で、キャパシティ・ビルディングに関するパリ委員会(Paris Committee for Capacity-building)など複数の新たなメカニズムや、緩和および持続可能な開発メカニズムを形成・設立するための手順を特定している。また同決定は、SBSTAが公的気候資金に関する新たな手順を策定することも求めている。

COPの閉会会合で多くが指摘していたように、妥協案をまとめたパリ協定は「良い合意だが完璧ではない」。NDCsの報告には法的拘束力があるが、その内容や目標には法的拘束力がない。またパリ協定は損失・被害に言及し、「気候変動の影響に伴う損失・被害に関するワルシャワ国際メカニズム(Warsaw International Mechanism on Loss and Damage associated with Climate Change Impacts)」に関する条項を適応条項と区別して設けている。この分離は多くの小島嶼開発途上国(SIDS)にとっての「勝利」だが、損害・被害に関連するコストはリスク保険だけではカバーできないため、多くの国は決定書の中で責任と補償が明確に除外されたことに失望した。

パリ協定は、当面、先進国に対して既存の約束以上に緩和・支援努力を強化することを義務付けていない。ただし多くが失望したように、先進国が2020年までに達成すると設定した1,000億ドルの資金動員目標は、「2025年中の決定において実質的に延長」し、それ以降については締約国が世界全体の新たな目標を交渉することになった。この規定については、一部の途上国も資金動員に参加するという期待が込められているとの解釈もある。

パリ協定の前文に人権への言及が盛り込まれたことについては、ベネズエラやボリビアを含め多くの国から歓迎され、これによってパリ協定は、人権を認めた初の多国間環境協定となった。また前文には、世代間の衡平性、気候の正義、健康に対する権利など、これまで「気候の問題」とは考えられてこなかった概念も含まれている。ただし、これらの権利はパリ協定全体に採用されているわけではない。このことについて特に失望したのはジェンダー問題の提唱者で、従前の文書案の複数箇所に記載されていたジェンダーへの対応に関する言及が、最終案で削除されたと指摘している。

世界の気候ガバナンスのより幅広い発展について、パリ協定は「ボトムアップ型」アプローチの進化を示している。パリ協定は、ルールに基づくトップダウン・システムと、誓約・検証に基づくボトムアップ・システムのハイブリッドと言うことができ、コペンハーゲンで生まれたボトムアップ型アプローチがNDCsによって「成文化」されている。一方、京都議定書で見られたトップダウン・システムの「痕跡」が、透明性や遵守メカニズムの共通ルールという形で残っているという指摘が多くあるが、執行部がない遵守メカニズムは「単なる」促進的性質しかないという意見もある。要するに、パリ協定の手続き的側面には法的拘束力があるが、例えば、事務局によって登録が維持されるNDCsの具体的目標など、実質的要素の大半には法的拘束力がない。

パリ協定では、締約国による差異化の取り組みにおいても進化が見られる。パリ協定はリマでの妥協に基づいており、その妥協を引き出すきっかけとなったのは2014年の気候変動に関する米中共同声明である。その結果、おなじみの「CBDRおよびそれぞれの能力」という表現に「様々な国の事情を考慮した」という文言が付け加えられた。ただし差異化の先駆けとされる条約の附属書への明確な言及はなく、様々なセクションで「先進国および途上国」という表現を微妙に調整しているだけである。アメリカのJohn Kerry国務長官は、「様々な国の事情」を考慮し各国がそれぞれの能力に応じて「公平な貢献」を決めるという点で、NDCsを「差異化の金字塔」と呼んだ。

透明性の枠組みは、あるオブザーバーによると「微妙に三叉している」。全ての締約国に法的拘束力のある報告要件を守るよう求める一方で、途上国の支援ニーズや、SIDSおよび後発開発途上国の特別なキャパシティ・ビルディングの必要性も認識している。また多くの途上国が主張したように、支援の提供に関する規定はより厳密に二分化されており、先進国は「資金資源を提供しなければならない」一方で、それ以外の国に対しては「そのような支援を自主的に提供する」ことを奨励している。

グローバル・ガバナンスにおけるこのような進化を達成するには手続き面での革命が不可欠であり、これは議長国フランスが成し遂げた大革命と言える。Laurent Fabius議長の指導の下で、COP 21は高度な透明性と包摂的なプロセスを維持することができ、各国の要求に応じながら、多くが想像した以上に実質的な合意案の作成を締約国に求めた。

議長国フランスはダーバンのCOPで用いられたインダバ形式を採用し、さらにコペンハーゲンのCOPからは、「各国首脳の役割は政治的指導を与えることで、文書に関する交渉はすべきではない」という教訓を学んだ。フランスは、2014年のリマでのCOP以前から同議長国のリマと共にプロセスを始め、「閣僚の知識を深めるために」複数の閣僚会議を招集した。

議長国フランスが主催した会議に加え、マーシャル諸島が、異なる地域・グループから約15人の「志を同じくする」閣僚を集めて非公式会議を開催し、同会議はその後「高い野心連合」となった。この緩やかな連合は最終的に100カ国を代表するようになり、明確な目標や5カ年レビューサイクルといった「野心的な課題」への支持を集めていった。結束を固めることで、グループに入っていない国が効果的に周縁化されたとも言われており、多くが指摘するように、これらの野心的な課題は最終的にパリ協定に盛り込まれた。

議長国フランスによるもう1つの手続き上の革命は、文書作成の全責任を各締約国に負わせたことである。そのため、ADPコンタクトグループで作成された括弧書きだらけの長い文書案と、第2週目に公表された各国の詳しい審議文書を閣僚自らが読み込まなければならなかった。議長国フランスが手続きの終盤になって突然見たこともない文書を提示するのではなく、それぞれに当事者意識を持たせることで、各国は成功または失敗の連帯責任を負っていることを理解した。会議の期間中、多くの国はフランスが独自に文書案を作っているのではないかと密かに考えていたが、あったかどうかはともかく、そのような文書が公表されることはなかった。そしてそのことによって閣僚たちは、選択肢や括弧書きの文書案を精査するという手間のかかる作業を自分たちで処理しなければと奮い立ったのである。

ある代表が指摘したように、透明性のあるプロセスが、締約国の野心を高めることにつながった。今回は、「議長が示した案を拒絶するという安易な逃げ道」はなく、しかも議長国フランスは当初から言っていた通り、各自の主張にきちんと耳を傾けていた。全ての国がフランスを称賛したのは、単にフランスが議長国だったからだけでなく、どの国も自国の立場を聞いてもらったことを認識していたからである。

全員参加か?野心的進化か?

全員参加を重視すると野心が犠牲になるおそれがあり、全員参加によって野心の全体的水準が低くなったという声をよく聞く。一見するとパリ協定もそのように思えるため、著名なオブザーバーの中には「代わり映えしない」と否定的な意見もある。しかし、195カ国全てに適用可能な単一の規則または目標などないため、各国が自主的に決定する約束草案は全員参加の実現に「不可欠」である。現時点でINDCsを提出しているのは187カ国で、これは世界の排出量の95%を占めている。参加率の高さを評価する声が多いが、全ての目標を達成しても約3 °Cの気温上昇になってしまう。従ってパリ協定の成否は、地球を守るために必要なレベルまでさらに貢献度を上げるよう締約国に対して促せるかどうかにかかっている。

野心を上げる手段として、パリ会議への参加者の多くが事前に考えていたのが「法的拘束力のある協定」だった。ただし、「法的拘束力がある」と協定に記載したからといって実施が保証されるわけではなく、多くの場合かえって野心と参加率を下げてしまう。シンガポールの閣僚であるVivian Balakrishnanが指摘したように、「京都議定書は意思にあふれていた」が、目標は控え目で、さらに主要国が参加していなかった。一方、NDCsは参加率が高いが、拘束力がないことで全体的な野心が低くなることへの懸念がある。

目標設定が協定の野心を向上させる手段になるという意見もある。パリ協定には、「世界の平均気温上昇を1.5 °Cまで抑えるよう努力する」、「出来る限り早く排出量のピークを迎える」と記載されており、ゼロ・エミッションへの言及だと多くが考えている「人為的な排出量と吸収量を均衡させる」という記述もある。これらはCOP 21開催前に予想されていたよりもはるかに野心的な目標であり、各国政府に影響を及ぼすと考えられる。ある代表が指摘したように、パリ協定の目標に合わせるために、COP 21前に提出されていたINDCsを再評価する必要があり、一部のオブザーバーは、それによって少なくとも複数の国が自主的なNDCsをより野心的なNDCsに修正することを期待している。

透明性の枠組みと世界全体の進捗状況評価は、パリ協定における「野心のためのメカニズム」とも言われている。緩和・適応・支援に関する報告および評価を5年ごとに実施するという二重の義務を課すことによって、得られた成果と必要な努力を全体的に評価することができる。また先進国が行った支援の程度を「詳細に」検証することで、緩和・適応に関する途上国の目標に沿った適切な支援を行えるようになる。多くの国は、これらが保証となって、一部の国が緩和のINDCsに対する条件付けを外しやすくなることを期待している。

多くの途上国にとって、2020年以降の野心は2020年以前の野心にかかっている。パリ成果文書にはダーバン・プラットフォームのワークストリーム2が含まれており、ワークストリーム2には、いくつかの方法を用いて2020年以前の緩和ギャップの問題に対処するという任務が課されている。その1つが緩和に関する強化された技術検証プロセス(TEP)で、同プロセスは、より多くの途上国の専門家その他関係者の参加を促し、条約の技術・資金メカニズムが果たす役割を形式化する。また適応に関する新たなTEPも設置され、適応が緩和と同等に重要な多くの途上国はこれを歓迎している。これらの制度を結びつければ、TEPsが「議論の場」から「解決の場」へと発展し、緩和および適応に関する技術と実践が世界中に普及する可能性があるという意見もある。

さらにCOP 22の促進協議において2020年以前の実施状況が評価される予定で、2016年から2020年にかけて毎年実施されるCOPのハイレベル・イベントは、今回および前回のCOP議長国が発足したリマ・パリ・アクション・アジェンダ(LPAA)イニシアティブに基づいて進められる。これらのプロセスによって2020年以前の野心を引き上げられるかどうかは今後数年間によって決まる。多くの国にとって、2020年以前の野心を引き出すカギは、条約によって多国籍および地方レベルの関係者を参加させられるかどうかにかかっている。

「皆のための気候革命」を引き起こす

COP 21のFabius議長が指摘したように、パリ会議を成功に導くのは世界共通の政府間協定を締結することだけではない。ある国が指摘したように、パリ会議が「化石燃料時代の終わりの始まり」として歴史に残るかどうかを最終的に決めるのは、国家並びに非国家主体による行動である。パリ協定は、「合意を築く」、「あらゆる主体による行動を紹介し結集する」、「めまぐるしく変化する実施環境に対するUNFCCCの役割を拡大する」という3つの手段でそれを実現することができる。

11月30日の首脳会合では、多くの政府首脳がパリ会議に対して強力かつ長期的なシグナルを発信するよう求めた。また国連のBan Ki-moon事務総長は、パリ会議が、低炭素で気候変動に強いグローバル経済への移行は「不可避かつ有益で、既に起こっている」という明確なメッセージを市場に伝えるよう要請した。さらに一部の国は、パリ協定によって(特に最も脆弱な国への)気候資金が2020年以降増額されることを保証するよう求めた。

パリ協定は確かに「全員による気候行動」という強力なシグナルを発信している。5カ年レビューサイクルや透明性の枠組みといった野心的な目標は、低炭素で気候変動に強い開発へ投資を転換させるために不可欠な市場へのシグナルとして、多くの国から歓迎された。パリ協定の世界共通という性質、およびほぼ世界共通の自主的なNDCsという要素が、投資・革新・技術開発の機会が世界中に広がりつつあることを示すメッセージになるという指摘もある。協力的アプローチとメカニズムについて規定した第6条も、「全員が対象」であること、並びに「野心的なNDCsの強化による各国の炭素クレジット需要の増大」という炭素市場が強く求めていた支援が含まれているという点で評価されている。

COP 21で定められたもう1つの重要な目標は、国家主体と非国家主体の両者による気候行動を加速させることである。2014年後半にLPAAを発足させるにあたり、COP議長国のペルーとフランスは、国連事務総長、UNFCCC事務局と共に、2014年の国連気候サミットで得られた勢いを利用して、COP 20のManuel Pulgar-Vidal議長が言うところの「非国家主体をCOP会議の場に招く」ための取り組みを行った。

COP 21が、国家主体と非国家主体が共にコミットメントを表明する一度限りの大イベントになるのではないかとの懸念も一部にあったが、パリ会議で発足または強化された多くのイニシアティブの勢いは長期にわたって続くと考えられている。例を挙げると、120カ国以上が参加するインドの国際ソーラー同盟や、個人投資家が主導する20億ドル規模の「ブレークスルー・エネルギー・コアリション」などである。さらにLPAAを通じ、アフリカの電化から、森林国における排出量削減、SIDSの気候リスク保険に至るまで、様々な行動に関する多数の誓約、並びに排出量削減とレジリエンス対策に対する巨額のコミットメントが表明されている。

最後に、ダーバン・プラットフォーム、特に2020年以前のワークストリームは、UNFCCCに世界的な気候行動の拠点としての地位を立て直す機会を与えたとの意見が多くある。パリ会議によって少なくとも3つの手段でこの機会を得られるようになり、UNFCCCが運営するLPAAの非国家主体気候変動活動(Non-State Actor Zone for Climate Action:NAZCA)およびNDCsに関する公的登録は、気候に関する計画・行動・支援の総合情報を提供する重要な窓口となる。強化された緩和TEP、新たな適応TEP、およびLPAA関連のハイレベル・イベントは、UNFCCCの枠内における非国家主体の関与を加速させると考えられる。パリ成果文書の決定書は、非国家ステークホルダーが取り組みと支援活動を強化するよう要請しているだけだが、UNFCCCのCOPは、世界中の市民団体、科学界、経済界、産業界が世界の関心を集め、ネットワークを構築し、ベストプラクティスを共有する「交流の場」としての地位を既に確立している。

「国連万歳、地球万歳、フランス万歳」

—François Hollande(フランス大統領)

合意の達成は困難で時間がかかる作業だったが、閉会会合で多くの参加者が考えたのは、「明日から仕事が始まる」ということである。2020年までに気候活動を早急に促進しなければならず、パリ協定の発効までに必要な手順を作成するための技術的・方法論的作業にも直ちに取り掛からなければならない。また多くの国が認識しているように、パリ協定の発効には世界の排出量の55%を占める55カ国以上の批准が必要とされているため、必ず協定が発効されるとは限らない。パリ協定を「2020年までに発効および実施」し、ダーバン・マンデートの最終任務を完了するには、主要排出国による批准が不可欠で、それまで多くの注目が主要排出国に注がれることになるだろう。

COP 21の閉会会合では、パリ協定が「野心的かつ公平で世界共通の気候協定」だと称賛され、さらに多くが、気候変動問題に対する多国間の取り組みが再び成功したしたことを歓迎した。一部のオブザーバーは、パリ協定を、2030年までの持続可能な開発アジェンダの採択と同様、国連の開発アジェンダにとって重要な年の集大成とみなすことができると考えている。同アジェンダには、持続可能な開発目標と開発資金に関するアディスアベバ行動目標が含まれているが、これらは気候変動に関するパリ協定と共に、今後数十年にわたって多国間主義の強力な基盤になると言える。

長年にわたる疑念と優柔不断を経て、パリ協定の締結により、「多国間主義によって国際社会が直面する切迫した課題に対処できる」という信念を新たにすることができた。2015年12月12日(土)にパリ協定が採択された時、大半の参加者は、「我々は行動しなければならず、行動する能力を持ち、行動することができた」というUNFCCC事務局長のChristiana Figueresの言葉に共感した。

(IGES-GISPRI仮訳)

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